「母乳と同じ粉ミルク」の鍵を握る、腸内細菌とオリゴ糖
◇発酵食品で健康になるためのヒント このように腸内細菌の化学的性質や遺伝子情報への興味はつきませんが、他方で、そうした腸内細菌を有する発酵食品は、みなさんが日常的に食べているとても身近な存在でもあります。私の研究室では、発酵食品の健康効果についての研究にも力を入れていきたいと考えています。 発酵食品は様々な種類がありますが、発酵によって栄養価が高められているイメージを持たれている方も多いでしょう。記憶対策や高血圧、脂肪を減らすといった効果を期待して、高機能と宣伝される発酵食品を手に取ることもあると思います。 実際に、発酵食品は昔から栄養価を高めたりするために食べられてきました。たとえば、大豆をそのまま食べるよりも発酵食品である納豆やお味噌として食べると、微生物が含まれていて、かつビタミンなどの様々な栄養物質を摂ることができる点で大変有用です。 腸内細菌の視点で言いますと、発酵食品は機能性もさることながら、味の良さ、人の好みに合うかどうかも重要だと考えます。というのも、効果が発揮されるには十分な量と継続的な摂取が必要だからです。 プロバイオティクスは日常的に摂取することで効果が期待できますから、やはり美味しく感じられるか、あるいは子どもやお年寄りでも食べやすいか、といった観点は大切だと思います。 ところで、塩分の取りすぎは高血圧を引き起こすために健康のためには減塩すべきと言われる一方で、発酵食品であるお醤油やお味噌、漬物のほとんどに塩が含まれています。 しかし、塩は他の腐敗菌を防いで、塩があっても死なない微生物が安全に発酵を進めるために重要です。発酵後においしくなる物質を作る熟成期間を長くするためにも欠かせません。 したがって、個人的には、作る過程で減塩するよりは、最終的な使用量を減らすといいのではと考えます。たとえば、お漬物であれば製造過程では塩を減らさなくとも、食べる前に水で洗って塩分をある程度落とすことができます。また、酢などの酸味があると塩味が効いたように感じて、醤油の摂取量も減らせます。 最近では、鹿児島の福山市で伝統的に作られる壺作り黒酢の研究もしています。普通の食酢は麹による糖化、酵母によるアルコール発酵と酢酸菌による酢酸発酵が行われてできますが、壺作り黒酢ではそれらに加えて乳酸菌が関わっています。 その中に含まれる有用な機能性物質を乳酸菌が作ると考えられています。乳酸菌は保存性を高めるだけでなく様々な物質を作ることで、栄養価を高めています。菌体成分も免疫調節作用があると言われていますので、ろ過して除去されるもろみをタブレットとして摂取すると健康にいいと思われます。 発酵食品、オリゴ糖、腸内細菌と遺伝子などの研究によって、人々の健康や負担軽減に貢献できたらいいなと考えています。
山田 千早(明治大学 農学部 専任講師)