【アイスホッケー】五輪最終予選、日本0勝3敗。 ①石田陸(イタリア・HCメラーノ)
「僕らはアイスホッケーのプロだから、 1試合1試合、切り替えて臨むしかない」
五輪の最終予選はまだ続いていた。デンマーク戦から休日をはさみ、9月1日に行われたイギリス戦。オリンピックには行けなくなった日本だが、それでも「ここで1勝して日本に帰ろう」と切り替えて臨んだ。イギリスは、世界選手権でぶつかる相手でもある。ここで負けるのか、勝って大会を締めくくるのかで意味が違ってくるからだ。 「僕らはアイスホッケーのプロフェッショナルです。1試合1試合、気持ちを切り替えて臨むしかない。目の前のワンプレー、ワンシフト。今までと変わらずに戦おうと思いました」 試合の前日、キャプテンの中島彰から声をかけられた。「陸、明日の試合前の声がけ、頼むわ」。選手は試合前、IFのファンファーレが鳴ってから整列をするのだが、その直前に控え室で声を出して、気持ちをひとつにする儀式がある。最終戦は、石田がその役目をすることになったのだ。 「どんな言葉が一番いいのかなって。イギリス戦は最後の試合だし、それぞれが楽しんでプレーすればいいプレーができるのかな、と。リラックスしていこうという意味もありますしね」 石田自身、いい薬だと思っていた。デンマーク戦では「延長に入ってネガティブになってしまった」と振り返ったが、直前までは「負けるなんてことは、頭の片隅に1ミリもなかった」と感じていたはずだ。ホッケープレーヤーとして大切なものを取り戻す、いい機会だと思った。 石田が選手たちに「声がけ」したのは、正確にはこんな内容だった。 「この最後の試合に勝って、日本のアイスホッケーを変える1歩目にしましょう。そして何よりも、この仲間たちと戦う1戦、全力で楽しみましょう!」 1ピリはイギリスが3連続得点。しかし、2ピリ以降、日本の「足」が出るようになった。22分にFW大津晃介(栃木日光アイスバックス)、36分に古橋真来(同)がスコア。3ピリにも2度、パワープレーがあった。それでもゴールは遠く、またしても2-3で日本は敗れた。 イタリアのメラーノのアパートで、石田は振り返った。 「国内合宿は7月の1度きりで、期間は1週間でした。できれば合宿を増やしてほしい。そんな意見もあるでしょう。でも、課題はそこなんでしょうか。難しいな。それよりも若手の中で5人くらい海外のチームに派遣して…というほうが、効果があるかもしれません」 日本は敗れてなお、得難い経験を積んだ。そう言うこともできる。 それでも勝ったほうのチームは、それ以上の経験を体得している。科学的に証明できないこととはいえ、そんな考え方も、できるといえばできるだろう。 海外で暮らす石田は、これからどのようにしてアイスホッケー人生を実りあるものとして生きていくのか。1度きりの「24歳の冬」が始まろうとしている。 石田陸 いしだ・りく イタリア・HCメラーノ、DF。2000年4月27日生まれ、北海道釧路市出身。身長178センチ、体重90キロ、背番号「8」。2歳からアイスホッケーを始め、釧路鳥取小、釧路鳥取中、武修館高から東洋大学を経て東北フリーブレイズに入団。2023-2024シーズンのアジアリーグ、全日本選手権の新人王を受賞する。今季、アルプスリーグ(オーストリア・イタリア・スロベニアの国際リーグ)のメラーノへ移籍。11月14日現在、アルプスリーグで13試合、2ゴール10アシストを記録している。得意な料理の腕をふるい、イタリアでも独身生活を謳歌中。「うまいのはサラダですね。キャベツを千切りにして、ゆで卵を入れて、カニカマときゅうりを添える。ちなみに今日のランチは、海鮮丼とみそラーメンです」
山口真一