【漂流する大卒者たち】就職しても「なんとなく辞める」で職を転々…自分の“居場所”を見つけられず「今の会社にいる理由もわからない」
厚生省「令和6年3月大学等卒業者の就職状況」によれば、大学生の就職率は98.1%と過去最高の数値となり、就活生は空前の売り手市場。一方で、なかなか仕事が定まらず、“漂流”する若者たちも少なからず存在する。彼らはなぜ、一つのところに腰を据えようとしないのか。“漂流大卒者”の実態を追った。【前後編の後編】
「自分に向いている仕事」がわからない
Sさん(20代男性/東京都)は現役で私立大学に進学し、ストレートで卒業。「なんとなく」受かったメーカーに新卒で就職するも、3年で転職。その後も再び転職を経験し、現在は3社目となるベンチャー企業に勤めている。 「高校も大学も、周りが進学しているから僕もなんとなく大学に行きましたし、就活も周りがやっているからやりました。希望の業界や職種もなかったので、入れそうだなと思ったところへ入社です。2年弱現場で働いて、そのあとは本社勤務になりましたが、なんだかつまらなくて辞めました」(Sさん) 「辞めたい理由」は特になかったが、「続ける理由もなかった」のだというSさん。2社目で地方の小さな食品会社に転職した。その会社を選んだのは、「地方を見てみたかった」ためだったが、1年と持たずに帰京した。 「よく、自己分析とかで『自分に向いている仕事を探そう』とか、『自分らしく働こう』というキャッチフレーズを見かけますが、自分らしくって何ですかね? 地方に行けば何か見つかるかと思いましたが、狭い人間関係から逃れられないコミュニティは僕には厳しかったです。今はたまたま声をかけてもらったベンチャー企業にいますが、それも特に自分がいる理由がわからない。長続きする気もしていません」(Sさん)
仕事を覚える前に「スキルアップ」「キャリアアップ」と身勝手に転職
大学ではなく、専門学校へ進学したOさん(30代男性/東京都)は、職場で出会う大卒たちについて、「自分よりも仕事ができないのに昇進が速く、そのうえ辞めていく」と不満を漏らす。 「僕は家庭の事情で大学には進学せず、ただ将来を考えてエンジニアの専門学校へ行き、プログラマーになりました。今はSier(システムインテグレーター)と呼ばれる職種で、IT企業に勤めています。 職場には大卒の方もいて、数年は私たちと同じ現場仕事をしますが、正直言って仕事ができるとは思えないのに、初任給は僕たちより2万円ぐらい高いのには納得がいかないです。なかには文系卒の人もいて、新卒が入る度に毎回こちらがゼロから教える羽目になるのですが、なんだかいちいち態度が偉そうなんですよね……」(Oさん) Oさんは、「大学を出たんだったら、出たなりの仕事をしてほしい」と憂鬱そうだ。 「彼らにとって現場経験は、『昇進するためのステップ』。実際現場を知るのは大事だと思うんですけど、新卒の人に『なんでこの仕事を選んだの?』と聞くと、結構な確率で『手に職を付けたくて』という答えが返ってきます。 だったら大学じゃなくて専門学校へ行った方がいいと思いますが、そういう人たちって、手に職がついたなんて言えないうちから、『スキルアップ』『キャリアアップ』とか身勝手なことをいって、大体転職してるんですよね。大学を出て就職したんだったら、僕らよりも給料が高い分、せめて会社に貢献してから転職してほしい」(Oさん) 卒業後、漂流する大卒生たち。空前の売り手市場といえども自分の居心地がいい場所を見つけるまでには、時間がかかるようだ。 ■前編記事:空前の売り手市場の裏で“漂流する大卒生”のリアル 何も考えないままに「長引くフリーター生活」、同級生の話を聞くと「ますます働く気が失せる」