手荒い歓喜の輪に包まれた菅原由勢「みんなの愛を感じ取った」苦悩の中でも貫いた“自分への矢印”
[11.15 W杯最終予選 日本 4-0 インドネシア ジャカルタ] 3-0で迎えた後半16分、日本代表DF菅原由勢(サウサンプトン)はピッチ外で見守るしかなかった4試合の悔しさも背負い、待ちに待ったW杯最終予選デビューを果たした。 【写真】「全然違う」「びびるくらいに…」久保建英の9年前と現在の比較写真に反響 すると投入から8分後の後半24分、その苦労に報いるかのような歓喜の瞬間が訪れた。これまではポジション争いのライバル関係にあったMF伊東純也からのパスを受けると、菅原は中を見ながらもペナルティエリア右に切れ込み、最後は右足でニアポスト脇上にズドン。自慢のキックを活かした衝撃的な一発で最終予選初ゴールまで決めてみせた。 周りの状況は鮮明に見えていた。「最初に抜けてペナに入ったところで中を見た時、(味方の)動き出しは見えていたけど、ただクロスを上げる考えよりも、どう相手のマークを外させるタイミングでクロスを上げようかを考えていた。思ったよりアクションに対するリアクションが薄くて、運ぶ中でゴールも近くなったんで、シュートを打とうと最後は自分で決心して打ちました」。ハイスピードな中でもかげりのない状況判断に加え、最後はキャリアを通じて磨き抜いてきた右足の精度で勝負を決めた。 得点直後にはベンチからもピッチからも菅原の周りにチームメートが押し寄せ、4点差のゴールとは思えないほど大きな歓喜の輪ができた。「僕は毎回ゴールが入るたびに行ってるんですけど、ようやくみんなの愛を感じ取った(笑)」昨年3月の第2次森保ジャパン発足以降、右SBの絶対的なレギュラーに定着した菅原だったが、今年1~2月のアジア杯を境に序列が急低下。3-4-2-1の新システム導入後はさらに苦境は深まり、最終予選では4試合連続で出場機会が訪れなかった中、その苦悩はチームメートの誰もが理解していた。 「さっき監督とも話したけど、サッカー選手としてやっている以上は11人の出場権を争うわけで、そこに対してのライバル心は当然あるわけなんですけど、いまの代表チームはライバル心はあれど、リスペクトの気持ちも持っている。僕の1点をあんなにみんなで喜べることが僕としたら感動的というか、あんなに来てくれると思わなかったんで……」 そんな感傷的な言葉を口にしながらも、ユーモアがあふれ出る菅原。「そのぶん、なんかお尻蹴られたりとか、なんか頭グシャグシャにされたりとか、よくわかんなかったですけど(笑)」と仲間たちからの手荒い祝福に話を向け、報道陣を笑わせつつも、「みんな勝ちたいって思っている中で、出られない選手のことを考えたりとか、みんながみんなチームのことを考えてるんで、素晴らしい雰囲気になっていると思います」と顔をほころばせた。 ゴールセレブレーションの際、最も早く菅原のもとに走り寄っていたのは同い年のDF瀬古歩夢(グラスホッパー)だった。瀬古も昨年3月の第2次森保ジャパン発足メンバーに名を連ね、初陣で菅原とともに先発出場を果たしたが、その後は強力なCB陣の中で存在感を示すことができず、昨年9月から1年間にわたって招集外。前回10月シリーズから復帰を果たしたが、出場機会はなく、菅原とは共に励まし合ってきた間柄だった。 「僕も彼と仲がいいので、代表期間中やそれ以外も連絡を取り合うことが多くて、『出たらお前ならやれるから』みたいな独特の関西弁でいつも励ましてくれて(笑)、すごい励みになっていた」。出場機会が訪れない苦悩の中でも明るさは欠かさなかった菅原だが、瀬古に続いて抱きついてきたGK谷晃生(町田)も含め、数々のチームメートの声に支えられていたのだという。 「もちろん歩夢だけじゃなく、試合に出ている(堂安)律くんも(板倉)滉くんも、(南野)拓実くんとかも全員がそうだけど、僕の状況をすごく分かろうとしてくれていて、分かってくれていて、本当に励ましてくれていた。僕も別に落ち込んでいるわけじゃなかったんですけど(笑)、いろんなコミュニケーションを取ってくれてたんで、自分のためにというよりも、そういう選手たちのためにやらなきゃって思えた。素晴らしい瞬間だったなと思います」(菅原) そんな菅原だが、試合後のフラッシュインタビューでは「自分に対するいら立ち、他の人に矢印を向けそうになった時もあった」という赤裸々な思いも吐露していた。これまでの代表活動では「自分がこの場所に立った時に出せるものを出していかないといけない」という姿勢を保ち続けていた菅原だが、その陰には少なからず葛藤もあったという。 「僕自身も皆さんと一緒で人間なわけで、全部が全部、人生うまくいくわけではない。もちろんああでもないこうでもないでも言い訳をしたくなることもあるし、誰かに言うわけではないけど思うことはある」 ただ、その中でも他責的な思いは胸に秘め、自身に矢印を向け続けてきた。 「それを言っても僕のサッカー人生が変わるわけでもないし、パフォーマンスが変わるわけでもない。他に向けそうになったとしても自分自身に矢印を向けて、何が必要なのか、もっといい選手になるためにどうなるべきなのかを常に考えるべきだと思った」 その姿勢は結果を出した今でも変わらない。 「そういう難しい時期をどう過ごすかで先が見えてくると思うのでで、今日は出場機会を得られて、結果は出たけど、またこれも一つの過程に過ぎない。今日はみんなで喜んで、また中国戦に向けてやっていけたらなと思います」 大きなアピールを果たした選手でも、ポジションが確約されないのがいまの日本代表。菅原は「スタメンの選手もスタメンじゃない選手も、試合だったり練習だったりで監督にアピールすることが大事だし、スタメンはその上で監督が決断するもの。僕たちはただ出た試合で自分の存在価値を示すだけ」と言い切り、スタジアムを後にした。