新総理に必要なのは具体的な改革提案:伊藤隆敏の格物致知
ここの原稿が掲載された号が発売されるころには、ちょうど新しい自民党のリーダーが選出されているだろう。国会の首班指名で自民党総裁が総理大臣になり、組閣を経て、新政権が発足する。その後、早い時期に衆議院解散総選挙があるという予想もある。総選挙では、野党との間で論戦のなかで、経済政策は大きな比重を占めることになるだろう。本稿では、新首相がリードすべき経済政策の課題について私の考えを述べてみたい。 最重要課題は、若者世代が、現在から将来にわたる生活の不安を少しでも解消できるような総合的な政策である。十分な手取り所得が得られるような労働市場改革、税制改革、社会保障改革が重要だ。結婚したいカップルが経済的な理由で結婚を躊躇することがないようにする、また、結婚したカップルが希望する数の子どもを育てたいと思える施策が重要である。そして、子育て世帯の負担が軽くなるようなさまざまな施策も必要だ。 このなかでも社会保障政策の改革は急務である。最もインパクトがあるが、政治的な抵抗が大きいのが、厚生年金の第3号被保険者問題である。第3号被保険者とは、厚生年金保険料を支払う労働者の配偶者で年間の所得が130万円未満であれば、保険料を支払わずに加入期間に認めてもらえる制度で、夫婦ともに社会保険料を払う共働き世代に比べて優遇されているという不公平感を生んでいる。 さらに、社会保険料の支払いを避けるため、年間のアルバイト収入が130万円を超えないように労働時間を調整している第3号被保険者が多くいる。この問題の解決には、夫婦の収入の合算所得を二分した額に所得税を課税したあと、その課税額を2倍して世帯の課税額とする、いわゆる2分2乗が合理的な策となる。社会保険料も2分2乗した所得をベースに計算することで、第3号被保険者という概念は消滅する。 さらに少子化対策(子育て世代への支援)を充実するには、世帯所得を、子どもを含む世帯の人数(N)で割った額に課税したうえで、それをN倍する、N分N乗とすることを提案することもできる。N分N乗方式は、社会保険料の共働き世帯への課税の不平等を解決したうえに、130万円の壁の撤廃で労働力は増加することになる。 さらに、社会保険料を(2分2乗のうえで)いくら払ったかを個人口座(マイナンバーに紐づけ)として管理することも可能になる。これは、確定拠出型年金を充実する際にも重要なポイントとなる。現状維持したい厚生労働省や税収減を心配する財務省はN分N乗方式には反対するだろう。新首相には是非、抜本的な社会保障制度改革、少子化対策、労働力増加対策に貢献するN分N乗方式の実現のため戦ってほしい。