英国決戦へ井上尚弥が異例の報道陣シャットアウト厳戒体制を取った理由とは?
WBA世界バンタム級王者の井上尚弥(26、大橋)が3日、横浜の大橋ジムでWBSS(ワールドボクシングスーパーシリーズ)の準決勝(18日、英国・グラスゴー)のIBF世界同級王者、エマヌエル・ロドリゲス(26、プエルトリコ)戦に向けての練習を公開した。会見と実弟でWBC世界同級暫定王者の拓真(23)と2ラウンドの軽く当てるだけのマススパーリングを行った後は、報道陣をシャットアウト、異例の厳戒体制を取った。その理由は何だったのか。そして井上の準決勝の勝算は?
漂うピリピリ感
会見の冒頭でテレビ関係者からインタビュー、シャドーボクシング、2ラウンドのマススパーを行った後に報道陣には退去してもらうという異例の段取りが説明された。厳戒体制を敷いての報道陣シャットアウト。これまでの井上の試合前取材では一度もなかった異例事態だ。 「まだ試合まで日にちもある。もっと長くゆっくり(練習を)やりたい。人も多いし風邪も気になる。マスクをして下さいよ」 井上は、そう報道陣にお願いした。 この日、50人を超える数の報道陣が大橋ジムにつめかけた。それだけの人に見られていると集中した練習ができなくなる。8日に渡英するが、毎試合厳しくなっている減量も含めた最終調整は、できる限り日本にいる間に詰めておきたいという陣営の意向がある。 父親で専属トレーナーの真吾氏も「今回のピリピリ感はマックス。それだけにリラックスしてストレスのたまらない汗の流し方をさせたい。回りに目があるとストレスがありますからね。最後まで普段と変わらない状態を作りたい。尚が一番、練習しやすい環境をね」と報道陣をシャットアウトした理由を説明した。 井上も続ける。 「練習中でも練習を離れても気を抜けない。常にピリピリしている。大会のでかさと、ロドリゲスの実力を評価してのもの。自分は、そういう試合のほうが実力以上のものを出せる」 雑音をシャットアウトしなければならないほどの敵が目の前にいる。しかも、初めて足を踏み入れる英国・グラスゴーという海外のリング。陣営が神経質になるのも当然か。 決勝進出と同時に2つのベルトだけでなく権威ある「リング誌認定ベルト」までかけられるビッグマッチの相手となるロドリゲスは19戦無敗12KOのキャリアを誇り、アマチュア時代にはユース五輪で金メダルも獲得している。井上が現地で観戦したWBSS1回戦の試合は拳を痛めて後半に失速したが、スピード、パワー、ディフェンスの3要素にバランスが取れた万能タイプのボクサーである。ジャブから試合を組み立ててくるストレートパンチャーで、一撃必殺のパンチ力はないが、常にコンビネーションブローを絡めてくるし、プエルトリカンらしく至近距離からの柔軟性、ショートカウンターもある。 井上は、これまでのボクシングキャリアの中で、オマール・ナルバエス、ジェイミー・マクドネル、ファン・カルロス・パヤノといった名チャンピオンを次々とインパクトのあるKOで撃破してきたが、今度のロドリゲスを「過去最強の相手」とまで評価している。 「アマキャリアもあって実力もテクニックもある。同世代で一番乗っている選手。(これまでで)一番の相手じゃないですか」 この2試合、衝撃の1ラウンドKOが続いているが、「今回もインパクトを求めるけれど1ラウンドで決まるか、どうかはわからない。毎試合、最後までやるプランで試合に入っている」と慎重で「違った面白さを見せる。技術戦になる。大切なのはジャブと距離。フェイントのかけあいで、どちらがペースをとるか」と試合を想定した。