「わいせつな感覚は微塵もなかった」…伝説のストリッパーの「引退公演」で見られた異様な光景
1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるまでに落ちぶれることとなる。そんな彼女を人気漫才師中田カウス・ボタンのカウスが「今あるのは彼女のおかげ」とまで慕うのはいったいなぜか。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。 『踊る菩薩』連載第14回 『壇上で失神したストリッパーに注がれる「感謝のまなざし」…かつて日本中を席巻した「伝説の女」の知られざる最後の舞台』より続く
夜叉から菩薩に
どのくらい時間が経ったのだろう。おもむろに立ち上がった彼女の髪は乱れ、鼻水が垂れている。化粧は崩れ、その姿はまるで夜叉だ。 夢から覚めた客席から凄まじい拍手が起きた。オペラやクラシック・コンサートでのスタンディング・オベーションのような拍手の嵐である。そのなかを彼女は、ゆっくりと去った。 そして、最後の曲が流れ、軽く身繕いをした一条が再び姿を見せると、客席からは割れんばかりの拍手が響いた。顔には一転して柔和な微笑みが浮かんでいる。夜叉が菩薩に変わっている。 舞台を所狭しと動き回る一条が、股をご開帳に及ぶと、彼女の前の客席だけが周りの人を吞み込んで、こぶのように盛り上がる。その山が、一条の移動に伴ってあちこちで起こる。
「観音様」...手を合わす観客
一色が後ろから見ていると、客席は波のようにうねっていた。そして、一条が自分たちの前から離れるとき、客は決まって観音様を拝むようにして、両の手を合わせていた。 波が一色のいる方向に回ってきた。人の頭でこれまで見えなかった彼女のひだが初めて目の前で開帳された。客は彼女の股の奥を凝視する。一条が自分の手でひだを大きく開く。 奥から泉のように溢れる透明な愛液が、陰毛を伝って落ちてくる。一滴一滴がカーボンでたかれたピンスポットの青白い光に当たる。ダイヤモンドのようにキラキラと輝いていた。一色は言う。 「美しい、実に美しいと思いました。まるで夜空の流れ星です。わいせつな感覚は微塵もなかった」 多くの踊り子を見てきた彼にとっても、初めて味わう感覚だった。それは半世紀が経過した今も、鮮明に思い出せる。 「アークの照明とあいまって、アソコから溢れるように湧いてくるわけです。それがお毛毛にそって、玉になって落ちていく。青白い明かりのために、ダイヤモンドのごとく光る。これはすごいです。そうするとみんな、いつの間にか手を合わせている。オレも無意識にそうしちゃっていた。観音様だなって」
