相続財産の国外フライトはできるのか…課税当局から何重もの網が敷かれる富裕層包囲網
国外転出時課税制度の適用関係
平成27(2015)年7月1日から国外転出時課税制度(出国税)が施行され、時価1億円以上の有価証券等を所有している者が国外転出した場合、その含み益に所得税が課税されることになりました。この所得税は、保有する株式などを実際には売却していなくても、出国時に時価相当で売却したものとみなして、対象資産の含み益に対して課税されます。 この制度が創設された背景として、有価証券の売却益に課税しない国や地域もあり、アジアではシンガポールや香港が該当します。日本からこれらの国に出国することで、有価証券の売却益に対する課税を回避することができたのです。 これらの租税回避を防ぐために国外転出時課税制度が創設されました。 「居住者」(国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人、所得税法2条1項3号)か否かが訴訟で争われた有名な事例として、ユニマット事件[東京高裁平成20年2月28日判決、平成19年(行コ)第342号:所得税決定処分取消等請求控訴事件(控訴棄却:確定)]があります。 税務当局がこの個人を日本居住者として課税処分をしましたが、訴訟で国側敗訴となったことがこの制度創設の基因となりました。
国外財産調書は5,000万円超
国外財産調書は、平成24(2012)年度の税制改正により導入され、平成26(2014)年1月から施行されています。根拠法は、国外送金等調書法第5条および第6条です。対象はその年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)です。
各国の金融機関の情報を相互に交換
平成30(2018)年から日本でも実施している金融口座情報自動的交換報告制度(Automatic Exchange of Financial Account Information:以下「AEOI」とします)が適用されました。外国の金融機関に口座を作り、それを利用することで行われる国際的な脱税工作を回避するために、OECDは、CRS(共通報告基準)を定めました。 AEOIは、各国の金融機関等にある情報を相互に交換する制度であり、日本の居住者に係る外国金融機関等の金融口座情報がある場合、国税庁はこの情報を受領することになります。AEOIの実施により、外国の銀行口座が国税庁に通知されることになりました。
外国の銀口座開設
仮に、多額の現金を手荷物して国外に持ち出したとしても、国より持込む現金の上限を定めている国があります。また、持込の規制が緩く、持込めたとしても、銀行口座を開設するためには、永住権等の資格要件があり、簡単に口座開設というわけにはいきません。 国内の相続財産に対しては包囲網が敷かれており、そう簡単に脱出させることは容易ではありません。 矢内一好 国際課税研究所首席研究員
矢内 一好