ヘッドスパ、最高級33万円 インバウンドに人気 新たな活路なるか
訪日外国人(インバウンド)に日本のヘッドスパが人気を集めている。物価高やコロナ支援金の打ち切りに苦しむ美容業界にあって、年間3500万人に達するとも見込まれるインバウンドが、新たな活路となるか――。【水谷怜央那】 【グラフ】1~11月累計で年間過去最高 訪日外国人数の推移 広々とした完全個室、うたた寝してしまうほどの心地のよいBGM。京都御苑の東側、京町家や寺院が建ち並ぶ一角に、美容院「PESCoPESCa」(京都市上京区)はある。1階はヘアサロンだが、周辺の高級ホテルから入るヘッドスパの予約客は、2階の専用ルームに通される。 最高級コースは210分で33万円。思わず桁の数え間違いを疑ってしまいそうな価格だが、インバウンド向けに4月から始めたこのコースには、定期的に予約が入るという。 美容院を営む「今井美容」(上京区)の今井愛代表(48)は当初、値段設定にためらいもあったというが、「日本は良い技術があるのに設定が低い。本来はもっと価値があるということを海外の人に伝えたかった」と語る。29年にわたり、5000人以上の頭を見続けてきた経験に、顔周辺の筋肉の関係性を学び直した知識を加えて生み出した独自技法で施術する。最高級コースは頭だけでなく、全身をマッサージする。 美容に関して調査を行う「ホットペッパービューティーアカデミー」が2024年6~7月、東京都と大阪府を訪れたインバウンド936人に実施したアンケートでは、約350人がマッサージ、リラクセーション施設の利用意向があると答えた。パソコンやスマートフォンの画面を注視し、目や首の疲労感に悩みを抱える人は多く、同アカデミーの田中公子研究員は「日本人の間でもヘッドスパの人気が高まり、店舗が増えたことで外国人の目にとまりやすいことなどが人気の背景にある」と需要の高さを説明する。 美容・リラクセーション業界は苦境が続く。物価高による資材価格の上昇、人件費や光熱費の高騰、コロナ支援金の打ち切りなども影響し、特にコロナ禍以降は廃業が目立つ。田中研究員は「美容サロンは元々参入障壁が低く店舗数が多いため競争が激しい。リラクセーション業は資格が必要ないため、さらに競争が激しくなる」と分析する。 一方で追い風もある。日本のヘッドスパについて、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」などで知られる機会が増えている。ブラジル国籍で滋賀県在住のバーバラさん(26)も知人を介して動画をチェック。今井さんの美容院で最高級コースを2回堪能し、「想像の5倍、10倍。まるで天国にいるようだった」と興奮気味に語る。男女を問わず「日本で受けてみたい」と話す友人らは多いという。 活況を呈すインバウンド需要。来年には大阪・関西万博の開催も予定される。美容業界の厳しさは続いているが、今井さんは「日本が好きで来てくれた人が満足する技術が提供できる自信がある人はどんどんやるべき。良い技術で満足してもらえばまた日本に来たいと思ってもらえる」と話している。