「アルゼンチンは今」(18)痛みを伴わない政治経済改革はない「大騒ぎのツケは国民が払う」バラマキ政策中断で生活にしわ寄せ=ブエノスアイレス 相川知子
公教育の現状
アルゼンチンは公教育も長年にわたり無料であり、高等教育機関も無償です。 国立ブエノスアイレス大学に入学試験は特になく、高校を卒業していることが条件です。教養学部機関がいわば突破口となり、これを乗り越えないと学部の授業が受けられません。なお、大学にも近隣諸国からの外国人が多く、推定10万人の在学生中ブラジル出身者は1万人とも2万人ともいわれています。 特に医学部はボリビア人、パラグアイ人を中心に人気のある課程です。国立ブエノスアイレス大学はレベルが高いことで有名ですし、近年下降中とはいえ、世界トップ100大学に常に位置し、しかも無償なのですから人気は高まる訳です。 公教育の校舎では時に、停電や断水があり、インターネットのつながりが悪かったり、暖房がきいてなかったり(冷房はもともとありませんが)、機器や機材が十分ではありません。教室によっては先着順で席が足りないことが多く、一方で教員の欠席率も高く、休講も多くなります。それらを乗り越えて、学業を修める優秀かつ根気のある卒業生が輩出されています。 教育は国家としては支出というよりも、むしろ投資ですから補助金削減はあってはならないことではあります。ただ、その補助金の内訳が不透明であり、また現実には各種省庁の予算や政治家への資金補填の隠れ蓑になっていることが指摘されています。そのために内訳を請求され、今度は大学の自治を盾に開示する必要がないと主張し、補助金削減反対とデモをするのは、本末転倒だと思わざるを得ません。 小口会計はコオペラドラと呼ばれる義務でない協力券が発行されますが、年間200%のインフレでは自転車操業です。逆にきちんとした予算案でさらに請求するのが望ましいと思われます。
公共交通機関の値上げの現実
公共交通機関の料金据え置きは国庫には大きな問題となっています。 特にコロナ禍での状況は仕方がないとはいえ、多くの負債をもたらしました。2020年のバスや地下鉄の料金は20ペソでした。しかしながらこの時期為替は1ドル50ペソから2022年までに100ペソと推移しました。それでもバス代はそのまま20ペソでした。それから少しずつ上がり、昨年2023年にバス代はようやく100ペソほどになりました。アルゼンチンの身分証明書(IDカード)を持っている人は、3月までにSUBE(メトロやバスの乗車磁気カード)に登録していれば270ペソで乗車できますが、もっていない外国人などは500ペソ近くを払うことになります。 地下鉄は5月1日からの値上げが10日からと延期になり、現在の125から574ペソに、そして、6月には667ペソへと段階を経て値上がりします。なお、バスも地下鉄も実際には800から1000ペソほどのコストであるので、結局政府からの補助金も得て、この料金で抑えられているのです。 一方で為替は昨年まで中央銀行の統制で300から400ペソで抑えられてきましたが、ブルーと言われる非公式為替が横行し、現実的には2023年11月には1000ペソまで達し、経済にも歪みが生じています。12月からの新政権では実質為替レートと近づけるため800ペソとしましたが、現在890ペソにまで達しています。ブルーレートは1000ペソ前後に推移しています。 このため今まで抑えられていた物価は上昇しましたので外国観光客からはうまみが減ったと言われています。現実には2023年末で年間200%以上のインフレが12月は25%、3月では11%となり、4月には一桁となる見込みで、沈静化しつつあります。 公共交通機関にはもちろん社会福祉料金、学生料金なども存在します。通勤時間の大混雑でサービスがよくないのに値上げすると言われますが、投資に回せないレベルの価格設定であるのが現状で、政府はまずは減便を行う対策をとっているので、さらに混雑が生じ、国民の不満も高まっています。