タニグチリウイチの「2024年 年間ベストアニメTOP10」 何度も観たくなる演出・編集の妙技
映画ならではの“動き”を与えた『ルックバック』の衝撃
押山清高監督の『ルックバック』は、アニメーションとしてのクオリティの高さがピカイチだった作品だ。田舎のたんぼ道を、京本から漫画の先生と褒められた藤野が最初は歩いていて、だんだんと早足になり、やがてスキップを踏んで走り出す流れでは、1ページの3コマと見開きの大ゴマとして描かれた原作に、映画ならではの動きを与え、嬉しさがわき上がる藤野の心情を強く感じさせた。 山田尚子監督の『きみの色』は、緩やかに全体を流していった先に来る講堂でのライブシーンでパンと弾けさせ、緩やかにエンディングへと引っ張っていく展開が実に心地よかった。トツ子なら自分の居場所の発見であり、きみなら過大な評価から逃げてしまった自分の回復であり、ルイなら期待に応えつつやりたいことにも挑む勇気の獲得といった、三者三様の物語のどこかに共感を抱かされた。 実写の山下敦弘監督とアニメーション作家の久野遥子監督という不思議な組み合わせの『化け猫あんずちゃん』は、俳優の演技を撮影したものをロトスコープによってアニメーション化した制作過程のユニークさもあるが、単に実写の動きをなぞるだけではなく、視線や表情を分かりやすくしたり、現実にはない変化を付けたりしてファンタジー感を高めて見せた。 最後の1作は中村健治監督『劇場版モノノ怪 唐傘』。絢爛とした絵画のような映像美をTVシリーズから進化させ、「大奥」という場所に新たなビジュアルイメージを作り上げつつ、そこに集う者たちうぃ君主への隷属ではない官僚として描くことで新味を出した。同じ大奥が舞台の次作『劇場版モノノ怪 火鼠』では何を見せてくるのか。楽しみだ。
タニグチリウイチ