マイナポイントが「使われすぎた」、セブン銀行の悲鳴、制度の落とし穴にはまり数10億円もの損失が発生
一方、「影響はない」と回答した事業者も複数あった。有効期限を設定していないポイントには「失効」という概念が存在せず、損失が発生する余地がなかったようだ。 また、あるクレジットカード会社は「(失効率を事前に算出するのではなく)ポイントの有効期限が到来した後、利用実績を踏まえた失効率を算出し、補助金を申請する予定」と話した。 実は、事業者の公募要項にはポイントの利用状況が「精緻に計測可能な場合」、例外的に補助金額の事後精算を容認する、との記載がある。事後精算であれば、失効率が想定と異なる事態は生じない。
この点、決済サービスコンサルティングの宮居雅宣代表は、事後精算の規定をこう指摘する。「通常の買い物で付与されたポイントと、マイナポイント事業で付与されたポイントとを別々に管理する必要がある。場合によっては大規模なシステム改修が必要となる」。 別の関係者によれば、セブンカードは両ポイントの切り分けがシステム上困難だとして、事後精算を選択しなかったという。 ■ポイントを制度に落とし込む難しさ 事業者の一部に損失が発生した事実ついて、国からマイナポイント事業を受託している一般社団法人キャッシュレス推進協議会の担当者は、「決済事業者に対しては、(交付された補助金額以上にポイントが利用される)リスクを事前に開示している。各社はそのリスクを認識したうえで、制度に参画している」との認識を示した。
また、セブンカードが追加の補助金交付を求めた点については「個別事業者とのやり取りは回答を控える。あくまで事前に定めたルールに基づいて判断している」(担当者)と回答した。 マイナポイント事業によって、国の目論見通りマイナンバーカードが加速度的に普及した。反面、消費者が通常のポイント利用とは異なる行動をとったため、一部の事業者が煽りを受けた。宮居氏は「国の政策に参画した事業者が損をすると、今後は国への協力に消極的になる可能性がある」と指摘する。
日本のキャッシュレス比率は4割と、マイナポイント事業が始まる前の2019年の約2・5割からは上昇したが、欧米にはいまだ水をあけられている。今後キャッシュレス決済を推進する際、ポイントという「人参」をどのように制度設計に組み込むべきか、検証が必要であろう。
一井 純 :東洋経済 記者