サンマ出漁今年は見合わせ 人手不足、燃料高騰、不漁続き… 安房で唯一の漁船(千葉県)
安房地域で唯一のサバ・サンマ漁船、安房丸(120トン)が、今年のサンマ漁を見合わせることが分かった。燃料価格の高騰や近年のサンマ不漁が今年も続く見通しが示されたこともあるが、最も大きな理由は人手不足。例年は伊豆諸島周辺でサバ漁をした後、8月にサンマ漁へ回るが、今年はサバ漁に絞る。 安房丸は例年、1~7月にサバ漁、8月半ば~11月末は北海道東方沖などでサンマ漁に当たってきた。サンマ漁に出航する際、母港・富浦漁港(南房総市)の岸壁で、乗組員の家族らが五色のテープを投げて見送る様子は、地域の風物詩になっている。 安房丸の規模でサンマ漁を行うには14人前後の乗組員が必要だが、今年は7月末現在で、11人しか確保できなかった。 追い打ちをかけたのが、近年のサンマの不漁が今年も続くとの見通しが出されたことだ。国立研究開発法人「水産研究・教育機構」が発表した今年度のサンマの長期漁海況予報によると、サンマが主に取れる北海道東方の北太平洋で形成される漁場は、北海道の東1000~1500キロの公海。安房丸だと、富浦漁港から現場まで、片道で3~4日かかる。帰りの燃料を考えると、仮に出漁しても現場海域でサンマ漁の操業ができるのは1日程度という。 サンマ漁は近年、不漁が続いている。1980年代後半以降は、おおむね20万~30万トンの範囲で安定していたが、2010年以降は減少傾向で、22年は過去最低の約1・8万トンに。23年はやや回復したものの、2・6万トンにとどまった。安房丸の漁獲量も、平成は700~2000トンで推移していたが、令和に入ってからは100~200トンと低迷が続く。海況予報は、今年のサンマの来遊量を、昨年と同じ「低水準」と予測している。 加えて、安房丸の鈴木勇人漁労長によると、2011年の東日本大震災以降、100トン以上のサンマ漁船は、9割以上が199トンクラスの大型に切り替わったという。鈴木漁労長は「船の能力差が明白で、安房丸では同じスタートラインに立てない」と厳しさを語る。 安全第一を考えると、例年より少ない乗組員での長距離の航行は難しい。燃料の重油代も、日本内航海運組合総連合会の資料によると、23年4~6月の1キロリットルあたり9万7200円が、今年の同期は11万6400円と高騰している。現場で操業できるのが1日程度では、出漁にかかる経費が賄えるか不透明な上、十分な漁獲量を確保できるのかも見通せない。安房丸を所有する安房さば・さんま漁業生産組合は、こうした状況を総合的に考え、今年は8月以降も伊豆諸島周辺でサバ漁を続ける判断をした。 鈴木漁労長は「1世紀以上続いてきたサンマ漁が途切れるのは気が引けるし、申し訳なさもある」と話す一方、「今年はサバに賭ける。年内はゴマサバ主体で、年明け以降のマサバにいい流れをつなげたい」と気持ちを切り替えていた。 (前木深音)