【Game Pitch Base】ゲームデベロッパーとパブリッシャーをつなぐ新サービスへの思いを聞く。「“ゲームを作りたい”という人がたくさん集まってほしい」
文・取材:古屋陽一 集英社は、ゲームデベロッパーとパブリッシャーをつなぐプラットフォーム“Game Pitch Base”をスタート。2023年12月20日よりβ版を公開した。 【記事の画像(10枚)】を見る “Game Pitch Base”は、クリエイターやデベロッパーが生み出したゲーム企画とパブリッシャーとのマッチングをサポートするプラットフォームサービス。クリエイターどうしのコラボレーション促進を目的として集英社が運営するコミュニティサービス“ゲームクリエイターズCAMP”の活動の一環として生まれた。 ゲームクリエイターは制作中のゲームの内容やビジネスプラン、パブリッシャーに求めるサポート内容などをまとめた“ピッチデッキ”を公開することができ、パブリッシャーはそれを閲覧することで、パブリッシュしたいタイトルを探すことができる。正式サービス開始は2024年中を予定している。 “Game Pitch Base”が生まれた経緯について、集英社ゲームズの森通治氏と集英社DeNAプロジェクツの堀切舜哉氏に聞いた。 ゲーム開発をより広げていく一助となることを目指して ――まずは、“Game Pitch Base”を開始するにいたった経緯を教えてください。 森 集英社では、クリエイターどうしのコラボレーション促進を目的として、2021年にコミュニティサービス“ゲームクリエイターズCAMP”(以下、“CAMP”)を立ち上げました。端的に言うと、この“CAMP”をさらに発展させるにはどうすればいいのかということで生まれたのが“Game Pitch Base”です。 関連して、集英社のゲーム事業ではタイトル発掘の方途としてゲームコンテストを実施していたのですが、このコンテストが本当によい仕組みなのかという疑問もありました。そうしていろいろと調べてみると、海外ではデベロッパーとパブリッシャーをつなぐ仕組みとしてピッチの取り組みがあったんです。それを日本でやってみたらどうだろうというのがきっかけです。 ――“CAMP”をさらに発展させるために“Game Pitch Base”があるということですね? 森 位置づけとしては、“その先を目指すために”ですね。“CAMP”はゲームを作るための仲間を集める取り組みです。そこで作られたゲームは必ずしも集英社ゲームズでパブリッシングされるわけではありませんし、“CAMP”で作られたゲームがより羽ばたいていくためには、パブリッシャーと結びつけるような場が必要だという判断がありました。 そもそもの成り立ちがややこしいというのはあります。“CAMP”は集英社のゲーム事業の一貫として生まれたのですが、ゲームパブリッシング事業を行う集英社ゲームズはそれとは別個にあります。集英社ゲームズはパブリッシャーなので、“CAMP”のいちパートナーでもあるといった複雑な立ち位置になっているんです。 ――込み入っていますね。 森 そうなんです。集英社が“CAMP”を立ち上げてコンテストなどを行っているうちに、だったらパブリッシャー機能もほしいということで生まれたのが集英社ゲームズです。 堀切 “CAMP”の運営は集英社ゲームズと私が所属している集英社DeNAプロジェクツが担っているので、言ってみれば、3社で運営しているのが“CAMP”ですね。加えて今回の“Game Pitch Base”を始めるにあたり、集英社ゲームズ以外にもさまざまなパブリッシャーにご参加いただくことになりましたので、オープンなプラットフォームであることを表明する意味も込めて、当初“集英社ゲームクリエイターズCAMP”としていた呼称から集英社を取って、“ゲームクリエイターズCAMP”とすることにしました。 ――コンテストというスタイルも合っていないのではないか……とのことでしたね。 森 コンテスト自体はとてもいいんです。実際、第1回で大賞を受賞した『シュレディンガーズ・コール』は順調に開発が進められているのですが、非常にいいゲームになってきています。2022年に応募を開始した第2回も、2部門を合算すれば応募数は第1回を超えています。クリエイターさんからの声もポジティブなものが多いです。 何が課題かと言うと、コンテストの告知から募集を経て審査して発表となると、延べ1年くらいかかってしまうということです。個人や少人数で取り組んでいるチームからすると、結果が出るかわからないのにずっとヤキモキした状態で待たされるのはツラいですよね。やはりそのあいだに開発を進めたいじゃないですか。でも、“CAMP”に応募しているから待たないといけない。 ――そうですね。 森 一方で、僕たちも数百という応募作をいただいても、現実的には投資できるのはそのうちの1、2タイトルに限られます。さらには、いま取り組んでいるタイトルとの兼ね合いもあって、よい企画なんだけど、推しづらいというケースもあります。それを「他社に持っていったらどう?」とも言いづらい。お互いに機会損失になっていました。コンテストにはいいところもいっぱいありますが、マイナス面もある。パブリッシャー都合に振り回されないようないい企画を集める方法はないかということで、堀切と相談してできたのが“Game Pitch Base”です。 ――それこそマンガとかだと、コンテストがけっこう盛んですが……。 森 そうなんです。僕たちもマンガ賞的な感覚で最初は始めたのですが、マンガ賞は結果が出るまでが早いし、それがそのまま商業作品として世に出ることはあまりない。でも、僕たちはゲーム企画を世に出せるものとして集めたいという思いがあります。マンガ賞と、最後まで仕上げる全体の企画を出すゲーム賞とでは、けっこうズレが大きいんです。 堀切 日本ではあまり盛んではありませんが、海外ではピッチをしてパブリッシャーから支援を勝ち取るというのはわりと主流です。それで“Game Pitch Base”を企画しました。 森 日本では、デベロッパーさんとパブリッシャーさんの関係がある意味ででき上がっていたんですよね。デベロッパーさんがパブリッシャーさんに企画を持ち込むパスも、長い歴史の中でもちろんありますし、開発に困ったデベロッパーさんがいると、パブリッシャーさんも「この企画いっしょにやらない?」というパスもあります。言ってみれば、そのエコシステムで成り立っているのが、日本のゲーム業界のいいところと言えるかもしれません。 一方で、「ひと山当ててやろう」とか、「新しくスタジオを起こそう」とか、そういう方面にお金とコネクションが回らなくなっている。海外はわりと逆で、ベンチャー企業のスタートアップみたいなマインドが強いです。 ――そんな海外の流れが日本にも来ているということですね。 森 お金がたくさん動くところに人は動くと思っています。でも僕らだけの投資だとやれる本数は少ないです。ゲーム開発者に対するお金の流れる総量が増えれば、「独立したいけれど悩んでいる」という人の後押しになれるかなとは考えています。 ――“Game Pitch Base”で心がけていることは何ですか? 堀切 デベロッパーさん目線で言うと、ピッチを掲載するにあたって、開発の予算やスケジュールなど、まだ公表されていない情報とかも多く含まれています。ですので、パブリッシャーとしてちゃんと登録審査をして、それに通った企業でないと見られないようにするなど、システム面ではとても気をつけています。 ――開発者の目線に立って、より使いやすいようにということですね。 森 実際のところ、単純にピッチデッキ作って公開するだけだったら、SNSでいいんです。登録した人にだけ見られるという場のサービスは作らないといけないのかなとは思っています。言ってみれば、信頼ですね。審査をちゃんと通った信頼できるパブリッシャーさんにしか見せないという。そこが双方にとっていちばん重要だと思っています。 ――とにかく信頼性ということですね。 堀切 はい。あとは、ビジネス的な情報も載せないといけないんですよ。そういうところもわかりやすくしたいという思いがあります。ピッチデッキとゲームの企画書って似ているようでいてけっこう違うんです。 企画書に関しては、日本に関してはプロのクリエイターも含めて、ゲーム内容をきちんと説明すればオーケーといったイメージがあるかと思いますが、ピッチデッキではもう少しビジネス的な側面も必要です。「このくらい売れれば開発費用を回収できます」とか、「このぐらいの期間でプロトタイプが完成します」とか、「翻訳にいくらかかります」といった予算の内訳だったり、そういうこともきちんと書かないといけない。 “出資してもらうための企画書を書く”ということに対して、日本のゲーム業界でそこまで考えている人はあまりいないのではないかと思います。そのへんは、“Game Pitch Base”では、ピッチデッキを公開するときにフォームの記載事項として用意しています。 森 僕らが2回コンテストを行ったからこそ、「こういう情報がほしかった」というのがわかるので、そういう意味では、コンテスト運営のノウハウが“Game Pitch Base”に活かされていますね。 ――“Game Pitch Base”では、クリエイティブを提出すればそれでいい、というわけではないということですね。 森 気になるクリエイティブがあったとしても、パブリッシャーさんによって出せる予算があると思います。 ――パブリッシャーが、自社にマッチしたコンテンツを見つけやすいということは言えそうですね。 森 そうですね。あとは、「このジャンルしかやらない」という特化型のパブリッシャーさんもいますよね。「海外向けのタイトルがほしい」とか。けっこうニーズはバラバラなんですよね。実際のところ、1社だけでコンテストをすると、いろいろなものが集まってきて、「僕らが欲しいのはじつはこれだったんだよな」ということで審査落ちした企画が、じつは他社さんが求めていたものだったという可能性もありがちです。「だったら、パブリッシャーどうしがお互いに情報交換をしたらいいのでは?」という、相互エコシステムが“Game Pitch Base”のコンセプトだったりもします。 ――各社求めるものが違っていて、それぞれのニーズにあったタイトルを……ということですね。 森 ちなみに、ずっと前に別のインタビューでもお話しさせていただいたのですが、集英社ゲームズはインディーゲームのパブリッシャーではないと明言していて、僕らは作家性のあるものに投資したいと思っています。僕らの場合は、まさにそこが投資基準だったりします。 ――作家性が優れていれば、開発資金の多い少ないは問わない? 森 集英社ゲームズの場合はそうですね。“CAMP”は、集英社サイドとして引き続き運営を担いつつ、“Game Pitch Base”では、登録している28社(※)の中の1社としての立ち位置になります。 ※2024年2月5日時点。インタビューの最後に参加パブリッシャーを掲載 “Game Pitch Base”に参加しているパブリッシャーは総じて熱量が高い ――2023年12月20日からβ版が公開されていますが、企画を持ち込みたいという方は、どういった手順を踏めばいいのでしょうか。 堀切 “CAMP”と同じで、会員登録をしていただいてピッチの情報を入れてアップロードしていただければ、クリエイターの方はそれで掲載できます。パブリッシャーの方は、まず個人のアカウントを作っていただいて、それから企業登録をする必要があります。登録いただいた内容をこちらで審査させていただき、問題がなければパブリッシャーとしての登録が完了になります。その後は、登録いただいた企業に所属しているユーザーであれば、パブリッシャーのメンバーとしてピッチデッキの閲覧ができるようになります。 ――パブリッシャーには審査があるということですね。 堀切 そうですね。デベロッパー側の視点からすると、ほかのデベロッパーには見られたくないという気持ちもあると思うんです。ですので、自社での開発が主で、ほかで開発された作品のパブリッシングをやっていない会社さんとかだと、登録をお断りさせていただく場合もあります。 森 あと、ゲーム業界とはぜんぜん関係ないけどやりたいといった方々はかなり審査させていただきます。僕らも含めてなのですが、最近は他業種の新規参入が多いところもあるので。 ――新規事業としての問い合わせもたくさんあるのですか? 森 はい、たくさんあります。まだ具体的な名前は挙げられませんが、いろいろな業界の方々からの問い合わせがありまして、実態が伴っていなければパブリッシャーとしてはお断りしています。 ――現時点で参加を表明されているパブリッシャーは28社とおっしゃっていましたね。 堀切 名前の挙がっている会社さんは、こちらからお声がけしたパブリッシャーさんも多いですね。BitSummitなどでブースにうかがって説明させていただきました。 ――パブリッシャーさんの反応はどうだったのですか? 堀切 基本的にはみなさん賛同してくれました。「ぜひ登録させてください」というところも多かったです。とくに中国のパブリッシャーさんなんかは前のめりで、「そういうのを待っていました」とおっしゃっていただきました。 ――出版業界ではライバル関係にあるかと思われる講談社さん(講談社ゲームクリエイターズラボ)も参加していますね。意外でした。 堀切 じつは一番初めに参加してくれたのが講談社さんなんです(笑)。 ――あら。出版業界ではライバルだけど、ゲーム業界では仲よくやっていこうと? 堀切 ピッチデッキについてのアドバイスが欲しい方向けに、iGi(インディーゲームインキュベーター)さんと講談社さんと集英社の3者で、いっしょに相談会なんかもやったりしています。意外と仲よくやらせていただいています。 森 逆に言うと、日本の大手ゲーム会社さんにはまだ参加いただけてないんですよね。そもそもこの手の窓口がまず存在しないんです。 堀切 まだインディーゲームをパブリッシングする部門がなかったりするところが多いです。そのへんは今後の取り組みになるかと思います。 ――審査が通って、パブリッシャーが登録された後はどうなるのですか? 堀切 パブリッシャーさんには登録されたピッチデッキを見ていただいて、気になる作品があれば、メッセージ機能を使って開発者さんへ直に連絡を取ることができます。そこで話してみて合意できれば、契約してパブリッシング、という流れです。 ――そうすると、パブリッシャーのやる気によって多少の濃淡が出る感じもしますね。 堀切 そうですね。現状は基本的にパブリッシャー側から探してもらうという形になりますので、それでどのくらいマッチングが生まれるかは、今後も注視していきたいと思っています。 森 あと、これは結果論ですが、べつに“Game Pitch Base”の中身をぜんぜん使わなくても、日本の市場に興味を持っているパブリッシャーリストができあがるというのはあるかもしれません。こういう会社がパブリッシングの候補になるのだという。これは、もしかすると業界初のリストかもしれないですね。 パブリッシャーのリストはいま日本には存在しないので、これはけっこうおもしろいリストかもしれないとは思っています。独自で作っている人はいっぱいいるとは思うのですが……。とあるパブリッシャーさんからは、「横の繋がりもほしいので、登録されたパブリッシャーどうしで懇親会を開いてほしい」と要望されたりしています。 ――参加しているパブリッシャーは、総じて熱量が高そうですね。 堀切 そうですね。とりあえず探したいという意欲はあると思います。無料なので、どれだけ登録されているか見てみたいという方もいらっしゃると思いますけど。 ――いまは、各パブリッシャーがいいゲームをつねに求めているという状況なのでしょうか。 森 そうですね。少なくとも集英社ゲームズはずっと探しています。とはいえ、大半のデベロッパーは断られることが多いとは思います。なぜかと言うと、1社でリリースできるのは数タイトルから数十タイトルが限界だと思うので。何百、何千という作り手がいる中で、ひとつのパブリッシャーに断られた作品がそのまま消えていくのか、それとも違うところに持って行ける余地があるのかというのは、広がる角度がまったく違ってくると思うんです。そういう、広がる状況は作りたいです。 ――先ほど中国のメーカーが……とおっしゃっていましたが、問い合わせは国内外問わず寄せられているのですか? 堀切 そうですね。中国もそうですし、アメリカもそうですし、日本国内も多数あります。日本国内はけっこう調べてお声がけしたつもりだったのですが、まだインディーゲームに取り組んでいないけれど、やろうとしている会社さんとか、新規参入の方とかからも問い合わせがありますね。 森 先日韓国の会社さんと打ち合わせをしたのですが、そのときに、同じような事業をやられている方からも「興味あります」と言われて、日本のゲームクリエイターのポテンシャルは世界で見られていると思います。 ――“Game Pitch Base”が始まったら、コンテストはなくなるのですか? 森 完全になくすかどうかはまだ決めていないです。“Game Pitch Base”の反響を受けて、つぎを考えようかなと思っています。これで僕らパブリッシャーも、クリエイターさんもやりたいことが満たされるのであれば、コンテストはあえてやらなくてもいいかなとは思っているのですが、「やはりコンテストの需要はある」という判断になれば、やりかたを新しくしてやることなるだろうとは考えています。 いずれにせよ、やるとしても、いままでのやりかたとは変えるつもりでいます。逆に言うと、今回僕らはパブリッシャーさんのいろいろな繋がりができたので、集英社ゲームズだけではなくて、業界全体としてコンテスト、イベント的なことができればいいなとも思います。 ――コンテストの応募作品を見て、気になったパブリッシャーが手を挙げるとか? 森 そうですね。僕らは僕らで、集英社ゲームズとしてタイトルがほしいので、フェアに交渉するようなことをやっていければなと思います。 ちなみに、今回いろいろなパブリッシャーさんにお話をさせていただいたときに、毎回言われたのが「これって、集英社さんにとって何のメリットがあるんですか?」というものでした。1年間は無料ですし、けっこうお金をかけてこのシステム作っているので……。 ――そう言われると、たしかにそうですね。 森 “Game Pitch Base”は、1年目は無料ですが、2年目は有料化する予定でいます。その金額感はいまがんばって考えているところなのですが、これで儲けようとは、いまのところ考えていないです。運営費をまかないたいというだけで。 「ゲームを作りたい」という人がたくさん集まって、ゲームが生まれれば、いまが仮に10だとしたら、これが100、200となったときに、いいタイトルが必然的に増えるわけじゃないですか。土壌ができあがるわけです。より発掘し甲斐のある土壌になる。長いスパンで見れば、それは集英社ゲームズに返ってくるものは多くあると思うんです。それがメリットかなと思います。世界に目を向けてみると、インディーゲーム市場はとても盛り上がっているので、日本でももっと盛り上がっていってほしいです。 ――まだ足りないですか? 森 もっと盛り上がって欲しいと思っています。熱量のレベル感も含めて。海外と比べたら、正直まだまだ盛り上がると思っています。 堀切 個人や小さい規模で作っているタイトルはあるのですが、20人規模のインディーゲームスタジオって、日本ではまだあまりないですよね。もちろん「みんなそうなって欲しい」とは思いませんが、そういうスタジオがもっとあってもいいかなとは思うんです。多様性として。 森 個人で作るのもいいですが、もっと複数で夢を見ていい企画もたくさんあると思います。それにはお金がたくさん必要になってきます。 海外の人たちはいい意味でも悪い意味でもアグレッシブで、「俺には1億円必要なんだ!」みたいにアピールしてきます。そのへんの熱量はぜんぜん違いますね。さっきお話したみたいに、「生活がきびしくなってもいいからゲームを作りたいです」なんて、海外だと言われたことがないです。 どちらが本気かという議論ではないと思うのですが、やはりお金って必要ですよね。実際問題として、ご飯を食べられないといいゲームは作れない。お金があるからこそいろいろなエンタメのインプットができて、いいゲームが作れると思うのですが、その熱量は海外のほうが断然強いです。 とくにアジアはめちゃくちゃエネルギーが高いです。集英社ゲームズ側の話になってしまいますが、2023年のBit Summitで、「海外に対応します」と発表してからすごくお声かけいただく機会が増えました。いま、いろいろな海外の会社さんに投資が決定しているのですが、熱量はやっぱりすごいですね。 ――“Game Pitch Base”には日本のインディーゲームの熱量を高めるための側面もあると? 森 「僕らが業界を変えたい」とかそんな傲慢な考えではないのですが、一助としてそうありたいです。 ――2023年12月20日にβ版の提供が始まって、正式サービスはいつぐらいを考えていますか? 堀切 提供してみてどれくらい課題が出るかにもよりますが、β版の期間は1年くらいと見ています。 ――現状で想定している課題などはありますか? 堀切 いちばんの懸念点は、ピッチがどれだけ集まるかですね。それがないと、パブリッシャーさんもお金を使ってまで“Game Pitch Base”を使い続けるのか……となりますし。 ――“CAMP”の盛況ぶりを見ていると、ある程度は見込みがありそうですね。 森 そうあってほしいですし。がんばりたいとは思っています。 “Game Pitch Base”ではスピード感を出して取り組んでいきたい ――ところで、せっかくの機会なのでうかがいたいのですが、集英社ゲームズのゲーム事業を始めてからの手応えはいかがですか? 森 集英社ゲームズは、社内のメンバーもみんな合意しているのですが、いま、“雌伏の時”、“潜る時期”ですね。しばらくタイトルが出ていないんですよ。たぶん2024年の夏までは出ないですし、出さない覚悟で動いています。ボードゲームは出るのですが。 なぜそうしたかというと、大きな反省としては、クオリティーコントロールの面に課題がありました。当初は、コンパクトに作ってコンパクトに出すという方向で進めていたのですが、もっとブラッシュアップする必要があると実感しました。それを各開発会社さんとディスカッションさせていただいて、「目標とするクオリティーに達するまでには、これくらいの開発期間が必要だ」という見直しを、改めてすべてのプロジェクトでやったんですよ。 ですので、必然的に開発期間が延びるという。僕らパブリッシャーとしては、自信を持ってよいゲームだと言えるように、「二人三脚でいっしょにゲームを磨き直していこう」というやりかたに変えました。1年目のタイトルで僕らの力不足の部分も多くあったので、そこはかなり見直しています。 あとは体制も、最初は10人くらいだったのですが、いまは30人以上在籍しています。ゲームとしてのクオリティーを磨くという、クオリティーコントロールのメンバーを増員したり、ゲームデザイナーを入れたりするなど、アドバイスがちゃんとできる体制を整えて、宣伝のメンバーもグローバルでちゃんとやれるように外国人のメンバーをどんどん増やしていて、いろいろな国で宣伝できるようにするという体制も磨いています。 あとは裏側ですね。法務など、ちゃんと「契約上問題ない」と判断できる体制も整えたりしています。ちゃんとしたゲームを作れるようなパブリッシャーになるという組織自体の磨きも1年間やって、かなり変わってきています。 ――そんなターンだったのですね。 森 いま僕らは、2024年の後半から2025年が勝負だと思っています。1年目の反省を2年目になる前にやって、いま裏側の仕事をみんなでがんばっているのですが、2025年~2026年に出るタイトルの仕込みをやっています。 言ってみれば、僕らは1年目は入り口だけをがんばりすぎていたんですよ。コンテストとか“CAMP”とか。でも、ゲームで本当に大事なのは出口というか、パブリッシングの領域になるんです。クオリティーコントロール、宣伝といったところになる。集英社ゲームズは入り口を大事にし過ぎた結果、お客様に満足いただける作品を提供できなかった。2023年の後半からは、出口を変えているターンにしています。 ――“Game Pitch Base”もその流れの一環としてあるということですか? 森 そうです。“CAMP”を見直してほしいと、堀切にお願いをしました。入り口となる“CAMP”を改善して、集英社ゲームズはパブリッシャーなので出口側を改善する。トータルで集英社のゲーム事業が、入り口も出口もきれいになっているというのが、2年目に目指したところです。いまちょうど3年目に入ろうとしているところで(※)、手応えとしてはとてもいいです。 ※集英社ゲームズが設立されたのは2022年2月。 ――ちなみに堀切さんはどういった経歴の方なのですか? 森 彼はじつはゲームの作り手なんですよ。 堀切 もともとDeNAでゲームプランナーを担当していて、とある大型タイトルの開発期ではバトルのプランナーを、運営1年目辺りではアシスタントディレクターをしていました。 学生時代から現在にいたるまで個人でもゲームを作っていたので、インディーゲームの支援をしたいなということで、“CAMP”のプロジェクトでお声がけいただいたという。 森 彼はINDIE Live Expoで紹介されるようなゲームも作っていますよ。 堀切 ファミ通.comさんでご紹介いただいたこともありましたね。僕が作っているということは開示はしていないんですけど。 ――会社的にNGなのですか? 堀切 いえ、そんなことはないです。僕がしていないというだけです(笑)。 森 そのくらいインディーゲームクリエイターとしても実績がある人なんですよ。 ――もしかして、いまも何か作っている? 堀切 作っていますね。 ――それでGame Pitch Baseに登録もするかもしれない? 堀切 かもしれませんね(笑)。 森 堀切は、“Game Pitch Base”を仕切るのは適任者なんですよ。クリエイター側の視点もわかるし、パブリッシャーの立場もわかるという。「堀切さんが、“あったらいいな”と思うものを作ってほしい」というのが、僕のオーダーとしてありました。「インディーゲームクリエイターとして、あったほうがいいものを全部入れてほしい」と。 ――そんなインディーゲームクリエイターとしての立場から見ての、いまのインディーゲーム業界に対する感触が気になるところです。 堀切 日本のインディーゲームクリエイターさんは、もとは同人ゲームやフリーゲームを作っていた方が多いので、「パブリッシャーを探してゲームを出そう」というやりかたを選ぶ人は、まだ少ないのかなと思っています。パブリッシャーがいなくても、Steamとかでなら自分でもゲームを出せるので。もしパブリッシャー側から声がかかれば、ワンチャン組んでもいいかなという人が多いのかなと。 また制作についても、本業とは別に空き時間を使って行っている方が多いと思います。自分のゲームの開発を専業でしたいと考えていたとしても、なかなかそこに踏み出せていない方が多いように思います。 ――それは、踏み出すための仕組みができていないからということもある? 堀切 そうですね。そういったきっかけやチャンスがほとんどない。少なくとも見えるところにはあまりないですよね。そういう場さえあれば、もう少し踏み出すきっかけや勇気になるのかなと思います。 森 コンテストを実施してみて思ったのですが、コンテストに応募してくるような方々は、専業になれるなら会社を辞めるという方が多いです。実際、コンテストで採択させていただいて投資が決まったあとで、「会社に勤めていたのですが、辞めました」という報告をいただいたりしました。もちろん、僕らが促したわけではないのですが。 だからたぶん環境が重要なんだと思います。いまは支えがないから、さすがに自己資産だけでゲームを開発するのは無理だけど、チャンスが与えられるのであれば、取り組んでみたいという。「この2年間をゲーム制作に集中してみたい」という方は、とてもたくさんいると思います。 ――コンテストは敷居が高いけど、“Game Pitch Base”でピッチデッキを登録してチャンスをうかがう……という方もいそうですね。 森 そうですね。あと、“Game Pitch Base”がコンテストと明確に違う点は、リアルタイムということです。結果発表を待たなくていい。たとえばピッチを登録して、その日中にパブリッシャーから連絡がきて、トントン拍子に契約が決まって、つぎの日から資金投資を受けて開発に移れる、なんてこともあるかもしれないんです。 ――そんなことが可能なのですか? 森 そういう風にできたらいいなと思っています。審査などいろいろあるので、実際はそう簡単に進まないとは思いますが……。パブリッシャーさんも、「気になる企画だけど」と思って考えていたら、もうほかの会社に取られてしまったということもあると思うんです。そういうスピード感は出てくるのかなと。業界のスピード感が上がればいいなと思います。 ――ちなみに、“Game Pitch Base”には、開発会社も登録できるのですか? 森 できますよ。デベロッパーさんも、若手にチャンスをあげたいという思いがけっこうあるようでして、「会社としては予算をつけられないけれど、もしパブリッシャーさんがついてくれたら応援してあげたいんだよね」という意見もたくさん聞きます。ですので、大手開発会社さんでも、若手ベテランに限らず企画をぽんと上げていただくというのも大歓迎です。これはけっこうニーズがあるような気がします。法人として渾身の企画を出してもらってもいいですし、若手枠で出してもらってもいいので、その会社上問題がなければ、デベロッパーさんにもぜひ使っていただきたいです。 ――最後に、“Game Pitch Base”のβ版を開始するにあたっての抱負などをお聞かせください。 堀切 ゲームクリエイターにとってもっともっとチャンスが増えたらいいなというのがいちばんです。専業でやっていく、その一歩を踏み出すチャンスになればと。そうするとクリエイターが増え、いいタイトルが増え、パブリッシャーが幸せになる。パブリッシャーが幸せになると、またクリエイターが増え……という循環になる。そのループを生み出すきっかけになったらいいなと思います。 森 僕はふたつの立場があるので、両方からこのプラットフォームを応援したいです。 “CAMP”の立場としては、いいきっかけを出せる場を作れたらいいなと考えています。今回、“集英社ゲームクリエイターズCAMP”からあえて集英社という名前を外して、よりオープンにしたという思いもあるので、ゲームクリエイターさんや開発会社さん、パブリッシャーさんにフラットに使ってもらいたいですね。集英社ゲームズの立場としては、“Game Pitch Base”でいいタイトルが出てくれば、どんどん投資したいです。そこで成功事例が生まれれば、みんな使いたくなると思うので、まずはそこを目指していきたいです。 Game Pitch Base参加パブリッシャー(2024年2月5日現在) Astrolabe Games アニプレックス CMONJAPAN ドリコム Erabit Gamera Games Game Source Entertainment Game*Spark Publishing ゲームオン Gotcha Gotcha Games ジー・モード Hooded Horse HYPER REAL IndieArk JUSTDAN INTERNATIONAL KLab 講談社ゲームクリエイターズラボ マーベラス Neverland Entertainment Pikii PLAYISM レイニーフロッグ room6 集英社ゲームズ 松竹 東映アニメーション WisperGames わくわくゲームズ ※Game Pitch Baseでは参加パブリッシャーを引き続き募集している。β版への参加を希望するパブリッシャーは以下窓口よりご連絡を!
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