少子化を解消するのに必要な出生率は日本のどこでも2.07なのか
人口移動の影響を考慮した人口置換水準
[図3]は福井県、東京都、広島県の2015年の合計特殊出生率、2010年から2015年にかけての累積残存率に基づく人口移動の影響を考慮した人口置換水準を示しています。後者の計算はかなり大雑把なのですが、大体の傾向は捉えられます。 福井県は人口流出による人口減がある地域ですから、次世代の母世代人口は出生数よりも少なくなります。そのため人口の再生産には2.07人の出産では足りません。人口移動によって減少してしまう分を多めに出産しておかなくてはならず、その結果が2.55人となっています。 それに対し、東京都は合計特殊出生率の低さが批判の対象となることが多いですが、人口が流入によって増加するため、出生数が少なかったとしても次世代の母世代人口は十分に確保できる。その結果は1.17という水準であり、人口移動による増加傾向がこれから先も変わらなければ、東京都は人口再生産するのに十分な出生率を既に備えているということになります。 広島県は福井県と同じくらいの合計特殊出生率ですが、あまり明確な人口流出地域ではないため、人口移動の影響を考慮した人口置換水準も福井県に比べて低くなっています。
現実であっても、客観的な状況把握を
福井県のような地方圏の自治体の多くは、もし現在の人口移動の傾向が維持されるならば、という条件付きですが、出生率が2.07まで上昇したとしても人口減少は止まりません。人口流出の影響を加味して考えれば、出生率2.07では地域人口を再生産させるには全く不足しているからです。どの程度の出生率を将来の目標として設定するのかということと、人口流出の抑制・UIJターンの促進をどのように進めるのかということは、連動して考えられるべきであると思います。 人口の流入と流出が均衡することになれば、出生率2.07が実質的な人口置換水準となりますが、そのような状況が達成される蓋然性は極めて低いといえます。こうした状況を前提とした地域計画の策定は危険です。厳しい現実ではありますが、地方圏は程度の差はあれ人口減少、特に若者の減少を念頭に置いたうえで、上手く機能するような地域の仕組み作りを考えていくほかありません。 ただし、量的に減少したとしても、UIJターンによる新規住民が全くいないというわけではありません。そうした新しい住民の持つ潜在的な力を地域社会に活かしていくという質的な議論も必要であると思います。いずれにせよ、楽観的に構える、操作的に明るい将来を見せるということでは、有益な結果にはならないでしょう。これは地方圏のみならず、大都市中心部、大都市郊外でも同様です。 日本社会は人口減少と少子高齢化が地域差を伴って進行していきますから、これから先重要になるのは各地域の状況を客観的に把握することです。そうした把握には、利用する指標の意味・計算プロセスを理解すること、それが自分たちの地域ではどのような値になるのかを検討することが必要であると思います。時として、全国の値を批判的に見た方がいいということもあるでしょう。 一方で、どのような点に着目すべきか、状況をどう把握するのかという分析視座や方法論が社会の変化の速さと比較して十分にアップデートできていないということも問題です。研究者や専門家の側の課題であり、当事者として社会のニーズに応答的なアウトプットを創出しなければならないということも感じています。 ---------- 丸山洋平 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学、博士(学術) 新宿自治創造研究所非常勤研究員、慶應義塾大学特任助教などを経て、2015年4月より福井県立大学地域経済研究所特命講師 主著に「戦後日本の人口移動と家族変動」(文眞堂) 専門は地域人口学、人文地理学、家族社会学