少子化を解消するのに必要な出生率は日本のどこでも2.07なのか
人口移動による人口の増加・減少
人口置換水準の計算プロセスをご紹介しましたが、注目したいのは生まれた女児が母世代の年齢にまで成長する過程として、死亡の影響([6])しか考慮されていないということ、別の言い方をすれば、人口移動の影響が考慮されていないということです。 日本全体であれば人口移動とは国際人口移動のことになります。これは最近増加しているとはいえ、まだまだ規模としては小さいので、人口置換水準にあまり影響はありません。ですが、日本国内の地域となれば話は別です。年齢別人口の加齢に伴う変化は死亡だけではなく、人口移動の影響を受けるからです。 年齢別人口の増加率、例えば2010年の10~14歳から2015年の15~19歳にかけての人口増加率のことをコーホート変化率といいます。このコーホート変化率は死亡の影響である生残率(1-死亡率)と人口移動の影響である純移動率で構成されています。 [図1]は福井県の女性について、2010年から2015年の5年間のこれらの指標の値を示しています。コーホート変化率は1を基準、純移動率は0を基準として、それよりも大きければ増加、小さければ減少を意味します。これを見ると、30歳頃までのコーホート変化率は純移動率の動きから説明でき、転出超過になって人口が減少していることがわかります。 先ほどの[表1]で示した計算プロセスでは、[図1]の中で生残率のみを利用しているということです。しかし、生残率による人口の減少だけでは、福井県の人口変動の実体を表すことができません。人口移動が転出超過となり、人口が減少する。これは福井県の人口置換水準にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
地域別に見た人口の残留傾向
人口・家族研究者の廣嶋清志氏は、このような問題を考えるために地域人口再生産率という指標を提起しています(*1) 。この考えを利用して地域別の人口置換水準を試算してみましょう。廣嶋氏は累積残存率という指標を用いて地域別再生産率を計算しています。これは、ある期間に見られるコーホート変化率によって人口が増減していったならば、地域内にどの程度の人口規模が確保されるのかというもので、[図1]で示したコーホート変化率を順に掛け合わせていった値になります。 [図2]に福井県、比較対象として東京都と広島県の女性の累積残存率を示しています。いずれも2010年から2015年にかけてのコーホート変化率から計算した値です。福井県は10~14歳から低下し、20~24歳を底にしてやや上昇しますが、10~14歳の水準にまでは回復せず、おおよそ0.8程度を維持するようになります。2010年から2015年にかけての死亡率と移動率の水準が維持されるならば、福井県の女児は母親となるまでに2割程度が減少するということです。 東京都は転入超過の影響により、10~14歳から25~29歳まで急激に上昇し、その後も緩やかな上昇傾向が続きます。広島県は中国地方の中心として周辺地域からの人口流入がある一方で、大阪や東京等への人口流出もあり、人口移動が均衡しやすいという特徴があります。地域別人口残留率も福井県や東京都と比べて変化が小さく、1.0~1.1程度を維持しています。 [表1]で人口置換水準の計算プロセスを説明した際、死亡の影響しか考慮していないということを取り上げました。この累積残存率は、人口移動と死亡の影響による人口変動を意味していますから、[表1]の生残率([6])の代わりにこの値を使えば人口移動の影響も加味した人口置換水準が計算できることになります。 ---------- (*1)廣嶋清志,2011,「地域人口政策と地域社会の持続可能性」吉田良生・廣嶋清志編著『人口減少時代の地域政策』原書房