統合失調症が疑われた姉を「もっと早く受診させるべきだった」 20年にわたる家族の対話を記録したドキュメンタリー
医学部に進学した8歳上の姉がある日、事実と思えないことを大声で叫び出した。統合失調症が疑われたが、医師で研究者の父と母は「問題ない」と精神科から姉を遠ざけた。18年後、弟である監督は姉と家族にカメラを向けはじめる──。20年にわたる家族の対話を記録した貴重なドキュメンタリー「どうすればよかったか?」。藤野知明監督に本作の見どころを聞いた。 【写真】この映画の写真をもっと見る * * * はじまりは1983年、僕が高2の春先でした。医学部に通っていた姉が突然ベッドの中で叫び出したんです。救急車で精神科に運ばれましたが、翌日父が「なんでもなかった」と連れて帰ってきた。その後も姉は食事中に机の上に飛び乗ったり、妄想に怯えて警察を呼んだりするのですが、両親は僕に「問題ない」と言い続けました。誰にも相談できず苦しかったです。本を調べて姉が統合失調症ではないかと思ったのは大学4年のときです。しかし大学の先生に相談すると「姉さんが統合失調症ならお前もか」と言われました。飲み屋の店主やおかみさんのほうが話を聞いてくれた。聞いてもらえるだけですごく落ち着くんですよね。 どうにかしなければ、と92年に初めて姉の状態を録音しました。それが冒頭の場面です。それでも両親は断固として姉を受診させなかった。僕は諦めて家を出て就職し、その後以前から興味のあった映像を学び、2001年から記念日や行事にかこつけてビデオカメラを回し始めました。記録を残すことでいつか姉の治療に役立つかもしれないと思ったのです。その後両親にあらためて姉について話を聞き、さらに姉が精神科に入院し症状が改善するまでに発症から25年が経ってしまっていました。 どうすればよかったか?はもうわかりきっているんです。姉をもっと早く受診させるべきだった。しかし両親を説得するまでに25年もかかってしまったことに「どうすればよかったか?」を考え続けています。いまはYouTubeやSNSで病状などの情報にアクセスしやすくなりました。でもまだまだ隠されている部分はある。映画として自分たちの25年を伝えることで同じ道を歩む人がいないように、何かの役に立ってもらえればと願っています。 (取材/文・中村千晶) ※AERA 2024年12月16日号
中村千晶