ハイ・リターン=ハイ・リスク? J-REIT配当利回りをどう考えればいい?
配当利回りの水準を決める2つの要因
これをJ-REITの銘柄選びに絡めて、もうちょっと具体的に見てみましょう。 配当利回りの水準を決める大きな要因の第1は、保有する物件のNOI利回りです。NOIが高ければそれだけ配当も多くなります。 このNOI利回りについては、以前、人気の高い良質な物件ほどキャップレート(不動産投資家が要求するNOI利回り)が低くなり、人気の低い物件ほどキャップレートが高くなるという話をしました。つまり、立地やグレードが良く、賃料収入の安定性や成長性が高く評価される物件ほどNOI利回りが低く、そうした優良な物件を多く保有しているJ-REITほど配当利回りが低くなる傾向があるということになります。逆に、配当利回りの高い銘柄は、保有する物件の質がそれほど良くなく、賃料収入の安定性や成長性に不安があると考えられるわけです。 配当利回りの水準を決める大きな要因の第2は、レバレッジと呼ばれるものです。レバレッジ(財務レバレッジ)は、 レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本 で表される比率のことで、自己資本ではなく負債に頼って資産を増やしていくと、この比率が上昇していきます。(以前に紹介したLTV~Loan to Valueという指標を使うと、レバレッジは、1/(1-LTV)にほぼ近い値になります。) つまりレバレッジが高いということは、それだけ返済しなければならない負債が多いということであり、損失がかさんだ場合に負債の返済が出来なくなって経営が破たんするリスクもそれだけ高くなります。その一方で、保有する物件の利回りが同じだとしても、レバレッジを高めることで投資口一口当たりに分配できる配当額を高めることが可能になるのです。 このような場合、配当利回りの高さは、財務リスクの裏返しにほかなりません。
配当利回りの高さだけを投資判断にするのは危険?!
以上のことから、J-REITの配当利回りは、 ・物件のリスクが大きい ・財務のリスクが大きい このいずれか、あるいはその両方の裏返しとして高くなることになります。ですから、配当利回りの高さだけで投資判断をするのはとても危険ということになります。 では、どうすればいいかというと、配当利回りの差は、各銘柄のリスクの大きさを表す指標の一つととらえればいいのです。 J-REITに投資したいけれど、相場の先行きには自信がないという場合は、配当利回りの低い、すなわち安定していて投資家の評価が高い銘柄を選びます。相場の先行きに自信を持っている場合は、資金の一部を配当利回りの高い銘柄に振り向けてもいいでしょう。一般に、相場全体が強いときには、リスクが高い銘柄のほうが価格上昇も大きくなりがちだからです。 さらにいえば、各銘柄の保有物件の内容や、運用を担うアセットマネジャーの実績などから各銘柄の実力を見極められるようになったら、それと比較して、実力のわりに配当利回りが高い銘柄を買うというような高度な戦略も可能になります。 配当利回りに関するポイントを簡単にまとめておくと、 ・配当利回りの低い銘柄ほど、安定性や収益性に対する投資家の評価が高い ・配当利回りの高い銘柄ほど、安定性や収益性に対する投資家の評価が低い ということになります。こうした関係は、実は投資指標全般に言えるものです。次回は、その他の投資指標について見ていくことにします。 (ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役・田渕直也) 著書に『入門 JーREITと不動産金融ビジネスのしくみ』、『入門 金融のしくみ』『世界一やさしい金融工学の本です』(すべて日本実業出版社)。