JR九州高速船の浸水隠し 調査で社内の安全意識の希薄さ浮かぶ
JR九州の子会社「JR九州高速船」が日韓を結ぶ旅客船「クイーンビートル」の浸水を隠して運航し続けた問題で、JR九州高速船は31日、国土交通省から受けた行政処分に対する改善報告書を国交省に提出し、後任の安全統括管理者と運航管理者を届け出た。 【写真】JR九州高速船「クイーンビートル」 親会社のJR九州も加わった社内調査で分析・公表した浸水隠しの原因からは、JR九州高速船の前社長をはじめ社内で安全に対する意識が徹底されなかった実情が浮かんだ。 改善報告書によると、2月12日、韓国・釜山港に到着時、船首部分に約3リットルの浸水が見つかった。船長は運航に支障を及ぼす恐れがあると認められる場合、運休の措置を取らねばならないため、直ちに報告を上げたが、陸上勤務の運航管理者や安全統括管理者は「浸水は軽微」で「安全運航に支障はない」などと判断。前社長も追認していた。 また、5月に浸水を感知しないよう警報センサーの位置をずらした工作も、前社長を含めて情報が共有されたが、運航継続と判断された。船長らは疑問があっても会社の指示には従わざるを得ないと考えたという。 前社長が追認した背景として、1月にも浸水が発生して運休した際、営業社員が予約のキャンセル対応に追われ、そうした状況を避けたいとの思いがあったとも指摘した。 他の要因として、別の浸水トラブルで2023年7月に策定した安全確保の基本方針が社内に浸透していなかったことも挙げた。 中央大学の青木英孝教授(企業統治)は改善報告を踏まえ「昨年、社内で安全確保の基本方針を策定したにもかかわらず、トップを含めて浸水を隠したのは悪質性の根が深く、重大だ。『安全』との言葉が軽すぎる」と批判。「日本では隠蔽(いんぺい)にまつわる不祥事が多いが、発覚した際にダメージがより大きくなることを学ぶべきだ。今回の問題を受けてJR九州はガバナンス(企業統治)を強化する必要がある」と話した。 近畿大の芳沢輝泰准教授(企業統治)は「報告書からは、経営陣を監視する企業統治と企業倫理がいずれも十分でなく、不正を防ぐ仕組みがなかったことがうかがえる。そもそもトップの倫理観が欠如していた状態で、これでは仕組みがあっても防げない」と指摘。再発防止策の内容も具体性に欠けるとし、「同様の不正があった場合、親会社のJR九州も責任を負うような仕組みも必要ではないか」と話した。【栗栖由喜、森永亨】