「そんなんだから、人が寄ってこねぇんだよ!」甲子園で敗れた“ある名門野球部”エースの青春…最後は「こんな仲間、どこにもいない」と言えたワケ
戦いを終えた男たちの慟哭が聞こえてくる。取材エリアにチームが姿を現す前からそれは一帯に響き渡っていた。 【写真で比較】「確かに表情、全然違うな…!」昨年は「そんなんだから人が寄って来ない」と言われた”バリバリの強豪校”エースが甲子園への道のりで大変化…まさかの旋風で今大会話題の大社ナイン&情熱的な監督たちの現地撮影カットも一気に見る 鶴岡東との初戦で敗れた聖光学院で、ひときわ汗と涙で甲子園の黒土まみれの顔をぐしゃぐしゃにしていたのが、エースの高野結羽だった。 ひっく、ひっくと、涙を止めようと声を上ずらせる高野は、「仲間」と何度も口にしながら報道陣の質問に答えていた。 「自分のせいで点を取られても野手の仲間が繋いでくれたり、ピンチでも守ってくれたり。仲間には感謝しています」 高野は昨年夏の甲子園にも出場していた、唯一の3年生である。だからといって、彼が「仲間」と連呼していたのは経験値の高さからくる責任感ではなく、本人の言葉にもあるように感謝が支配していた。
典型的な「我の強い」エース
1年前の高野は、どちらかと言えば仲間ではなく自分に目を向けているような典型的な我が強い選手で、現に昨秋がそうだった。 打たれる。フォアボールを与える。ピンチを広げると、マウンド上で所在なげにイライラし、肩に力が入ったままボールを投げる。この時期は右足を痛めていたこともあり思うようなパフォーマンスができず、高野の憮然とした佇まいは誰の目にも明らかだった。 「打たれるのは当たり前だと思ってるんで。僅差でも大差でも、打たれたらしょうがないというか、バッター一人ひとりとケンカするつもりで投げられていないだけなんで」 記者の前でもそうつっけんどんに受け答えする。 監督の斎藤智也は、そんな高野を危惧するように視線を送っていたものだ。 「このチームで一番、経験値あんのが高野なんだけど、それで逆に首を絞めてるようにも思えんだ。『甲子園でちょっと投げたからって、お前はまだなんもしてねぇんだかんな』って言い続けて、あいつにスイッチを入れさせようとしてんだけど、今はまだ完全に入ってない。これからって感じじゃないかな」 聖光学院には「いいことも悪いことも受け入れ物事に臨む、強い心を育てる」といった意味合いの『不動心』、そしてもうひとつ『一燈照隅』という部訓がある。 比叡山延暦寺を開いた最澄が唐から持ち帰った言葉とされており、「一隅を照らす灯は、最初は小さくとも、それが百、千、万と増えれば国中を明るく照らす」と解釈されている。 一燈照隅が流れる聖光学院に「王様」や「俺様」は必要ない。しかし、新チームが発足し「一枚岩」をスローガンとするなか高野の存在は明らかに浮いており、選手たちは腫物に触るように接していたほどだった。 そんなチームメートの不満が爆発したのは、夏へ向けそれこそ一枚岩として結束すべき、3年生になろうとしていた春である。 「そんなんだから、お前のところに人が寄ってこねぇんだよ!」 高野とともに投手陣を支えていた古宇田烈が、ストレートに言い放つ。 古宇田は高野とは対照的な選手だった。選手間でのミーティングでは、本人にとって耳が痛くなるような核心をズバズバと突きながら、自分は誰よりも厳しく追い込む。全員がそんな彼の姿を知っているからこそ、「古宇田に言われたら」と言動を見つめ直す。 ところが、高野はそこで釈然としない姿勢を取ってしまい、チームとの溝が決定的に深まってしまったのである。古宇田が嘆く。 「秋からの高野は、自分のためのピッチングをしていただけというか。打たれたり納得できなかったりすると態度に出ていましたし、人に当たることもあったんで。『ほかの選手がどういう想いでプレーしているのか』をわかってほしかったんで本人にそう言ったんですけど、まあ、3月、4月は険悪でしたね。
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