「あの時できなかったことを…」クロノジェネシス以来、4年ぶりGⅠ制覇をもぎ取った鞍上と陣営の固い“絆”。来春クラシック候補と再び夢舞台へ【ホープフルS】
2着ジョバンニ、3着ファウストラーゼンの今後の成長に注視
2020年の有馬記念(クロノジェネシス)以来、4年ぶりのGⅠ勝利となった北村騎手は、「(レース運びは)思い通りではなかったですが、馬を信じて行ったので、どんな流れになっても自分の競馬に徹して、強い競馬ができました。緩さが解消されて、より動ける態勢が作られていたなと思います」とコメントし、愛馬とスタッフを褒め称えた。 そして、「またGⅠを勝つことができました。本当にたくさんの方々に助けていただき、応援していただいて、またここに導かれたのだと思います。この場をお借りして、みなさんに感謝の気持ちを言いたいと思います。ありがとうございます」というと、こみ上げるものを堪え切れずに落涙。観客からは大きな拍手と歓声が送られた。 北村騎手は2021年の阪神競馬で落馬。8本もの背骨に骨折が見られる重傷で、復帰まで1年以上の時間を要した。その間に、愛馬クロノジェネシスは宝塚記念で2連覇を果たし、凱旋門賞へも遠征(7着)。悔しさを噛みしめていた。 実は北村騎手が治療・休養中に無理を言って電話取材をしたことがある。そのとき彼は怪我でクロノジェネシスを手放すことは仕方ないとしながらも、「クロノはまだ底を見せていません。彼女がどこまで強くなるのか、それを実感できないのが悔しい」と訴え、筆者も胸を締め付けられるような思いをした。それだけに、勝利騎手インタビューでの涙はぐっとくるものがあった。斉藤調教師が「あの時できなかったこと」とは、凱旋門賞遠征だと推察するが、来年はまず国内で好成績を残し、フランスへと飛び立ってくれるように心より願う。 2着のジョバンニは、勝負どころでごちゃついて、いわゆる「踏み遅れ」が生じての敗戦となったものの、上がり3ハロンはクロワデュノールを0秒1上回る34秒8を計時しており、ポテンシャルの高さを示す走りを披露した。伸びやかな馬体は距離が延びてさらに良くなる可能性を感じさせるもので、来春の日本ダービーに向かっての成長を注視したい馬だ。 3着のファウストラーゼンは、道中で思い切りよくまくって出た杉原誠人騎手の好騎乗が目立った。またこのレースから装着したブリンカーの効果も侮れず、直線でも集中力を切らさずにゴールまで走り抜いたところは評価できる。父は近年の欧州において傑出した存在だったフランケル(Frankel)の産駒、モズアスコット。その初年度産駒から活躍馬が出たことによって、より大きな注目を集めるだろう。 マジックサンズやピコチャンブラック、マスカレードボール(牡/美浦・手塚貴久厩舎)など大崩れした上位人気馬は、思わぬスローペースに走りを乱され、幼さを出したのが敗因だと見えた。まだここで見限らず、評価は来春に持ち越しとするべきだろう。 文●三好達彦