【後編】文字が書けない慶応生が語る「理想的な合理的配慮」、個別最適な学びを保障する学校や教員の姿とは
困難を極めた「定期テストや入試」でのパソコン使用
小学校でiPadを選択して学習をするようになった有祐さんは、その使用実績を基に中学校でも使用できるよう、入学前に開かれた校内委員会で教員たちに自身の特性や必要な配慮について説明した。「集団行動にはついてこられるのか?」「タブレット端末で書く速度はどのくらい?」といった質問にも1つひとつ丁寧に答えた。 その結果、入学式では「聴覚に過敏なお子さんがヘッドホンをして入場します。ご了承ください」とアナウンスがあったり、学校生活が始まるタイミングで教員が「A組の菊田はiPadを使うけど、文句ある人はいないね?」と生徒たちに言ってくれたり、よいスタートが切れたという。 しかし、定期テストでは「ずるいからダメ」とパソコン使用の許可は出なかった。仕方なく手書きで臨んだが、問題を解き、答えを書こうとすると、「どんな字だっけ」と考え込んでしまい、書こうとした答えを忘れてしまう。その繰り返しに苛立ちと疲労が募った。 それでも点数が取れたため、手書きで大丈夫だろうと判断されてしまった。あまりの苦しさに耐えきれず、練習しても手書きが困難である証拠として、小学校で取り組んだドリルやノートなどを提出してやっとパソコンで定期テストを受けられることになった。 有祐さんは「自分は絶対に不正をしないので、試験監督をつけてください」と宣言。担任の教員が専属の試験監督となった。試験当日はパソコン・ハンドスキャナー・プリンターを持参し、試験開始とともにB4サイズの解答用紙をスキャンする。 しかし、ハンドスキャナーが読み込めるのはA4のみ。そこでまずB4の解答用紙をA4サイズにはさみで切って読み込んでパソコンに取り込み、解答を埋めていく。「やめ」の合図で解答をプリントアウトし、提出する。B4をA4サイズに切る時間が必要なため、解答に割ける時間はほかの生徒より少なくなる。解答用紙をA4で欲しいと何度も交渉したが、理解してもらえたのは中学校生活が終わる頃だったという。 高校受験を見据え、中学2年生の頃から、受験当日のパソコン使用を許可してくれる高校を探した。しかし、学力は伸びていくのに受験できる学校が見つからないまま中3の夏休みも学校めぐりを続け、訪れた学校の数は20校を超えていた。 長い奮闘の末、合理的配慮を認められたのは2校のみ。慶応義塾高等学校(以下、慶応高校)では時間延長が、もう一校の早稲田大学高等学院では大学のパソコンの使用が許可された。両校を受験した有祐さんは慶応高校に合格し、晴れて高校生となった。