スーダン内戦とグローバル資本主義【寄稿】
スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
今の時代の最も恐ろしい流れをよく示す人物を探すとすれば、ヤヒヤ・シンワル、ベンヤミン・ネタニヤフ、金正恩(キム・ジョンウン)、ウラジーミル・プーチンなどの名前が浮上するだろう。しかし、主流メディアが無視する惨状に視野を広げてみると、われわれは、スーダン内戦を起こしているスーダン軍部の蛮行に注目する必要がある。 スーダンの状況は、他のケースではあまりみられないグローバル経済の論理を明確に示している。2019年に長年の独裁者オマル・バシルが大規模な反政府デモによって追放されたが、すぐさまスーダン政府軍を率いる軍部の最高指導者アブドルファタハ・ブルハンと、即応支援部隊(RSF)の司令官のモハメド・ハムダン・ダガロがクーデターを起こし、民主主義に向かっていた希望を踏みにじった。その後、2人の軍部指導者は見解の違いを示して対立を始め、2023年4月にスーダン内戦が勃発した。これには人種問題も絡んでおり、RSFは大部分が黒人イスラム教徒で、一方のスーダン政府軍は主にアラブ人からなる。 スーダン内戦において、外国勢力は重大な影響を与えている。中国などはスーダン政府軍を支援し、ロシアのワグネル・グループ、リビア軍、アラブ首長国連邦(UAE)はRSFに軍事物資、ヘリコプター、武器を提供している。特に金の埋蔵量が豊富な地域を掌握しているRSFは、他国に金の採掘権を譲渡した代価として、国民のための食糧ではなく、自分たちが必要とする武器を購入している。ここでわれわれは、天然資源が暴力と貧困の資源になる第三世界の悲しい現実と向き合うことになる。 コンゴ民主共和国も、ダイヤモンドと金の埋蔵量が豊富であることを理由に、長きにわたり苦しみを味わってきた。コンゴは、欧米がいかにしてアフリカの大量難民問題の条件を形成するのかをよく示している。アフリカ内部の対立は、しばしば部族間戦争と単純に説明されるが、実はグローバル資本主義の影響と緊密に絡み合っている。独裁者モブツ・セセ・セコの没落後、コンゴの各地域を占領した軍閥は、コンゴの鉱物埋蔵量を絞り取ろうとする外国企業と取引をしている。このようにして採掘された鉱物は、主にノートパソコンや携帯電話のようなハイテク製品に用いられる。 コンゴは特別に例外的な状況にあるのではない。リビアも同様に、フランスと英国の介入とムアンマル・カダフィの没落後に事実上国家が解体される、いわば「コンゴ化」を経験した。その後、リビアの領土の大部分は、外国の顧客に石油を直接販売する武装ギャング集団の支配を受けている。豊富な鉱物や石油の呪いにかかったアフリカ諸国の分裂を維持する流れは、国家権力の干渉を受けずに安価な原材料を安定的に確保しようとする、現代資本主義の戦略だ。 悲劇的なことに、これらの対立の当事者のうち、潔白な者や正しい者はいない。スーダンだけをみても、RSFだけが問題なのではなく、2つの軍部がともに同じ残忍なゲームを行っている。この状況に対して、アフリカ人が「原始的」であるためいまだ民主主義を受け入れられずにいるという結論を出してはならない。本当の問題は、欧米、中国、ロシア、裕福なアラブ諸国がアフリカを継続して経済的に植民地化していることだ。 経済学者のヤニス・バルファキスが主張したように、現在の資本主義は新封建主義に移行しつつある。自分たちが分割されたデジタル領土(図書、メッセージ、デジタルソフトウェア)を事実上独占しているアマゾン、X、マイクロソフトのような巨大IT企業がその例だ。しかし同時に、スーダンやコンゴのような国では、中世の時代に似た形態の封建主義が進行している。このようにわれわれは、テクノ封建主義と原始的封建主義の結合がますます進んでいく時代を生きている。このような意味で、今の時代の恐ろしい流れをイーロン・マスクよりさらによく示しているのは、RSFのダガロではないだろうか。 スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )