ホンダ「XL250S」は「23インチのワークブーツ」と呼ばれた林道ブームの主人公
オン/オフモデルの新時代到来を告げた、全てが「超えてる」マシン
1978年に登場したホンダ「XL250S」は、ホンダのオフロード系バイクが進化する中で、リアに2本のサスペンションを採用する最後期のモデルです。次期モデルはプロリンクサスペンションを持つ「XL250R」(1981年)で、「XL250S」は2本サスオフモデルの完成形という見方もできます。 【画像】ホンダ「XL250S」(1978年型)の詳細を画像で見る(10枚)
ホンダのオン/オフモデルの歴史を振り返ると、1960年代は4ストローク2気筒のロードバイク用エンジンを流用した「CL」シリーズでした。2気筒エンジンなので公道は快適だったと思いますが、現在の目線で見れば「CL」シリーズが走行できる範囲は未舗装路まででしょう。 1970年台に入ると北米マーケットから悪路、さらには道から外れた荒野の走りも楽しめるオフロード車の開発の要望が高まり、4ストローク単気筒エンジンの「SL250S」(1972年)や「XL250」(1975年)が発売されました。 徐々に向上するホンダ車のオフロード性能は、当時開発していたモトクロス専用車「エルシノアCR250M」(1972年)で得たオフロード走行への車体作りの知見が後押しになっていたと思われます。 さらに「XL250S」は、前作の「XL250」を大きく超えるオフロード性能を持っていました。走破性を上げる大きな鍵は、車体の軽量化です。「XL250S」の乾燥重量は119kgと、2ストローク車を含めても当時の同クラスではトップクラスの軽さでした。 軽さと聞くと車体に目が行きがちですが、実はエンジンが大事な要素でした。新開発の空冷4ストローク単気筒SOHC4バルブエンジンは、単気筒では世界で初めてバランサーを装備しています。しかもコスト高となる2軸バランサーです。
それまでの単気筒用の車体は、振動対策のために2気筒車や4気筒車よりも頑丈にできており、それがゆえに重たいフレームとなっていました。「XL250S」は単気筒エンジンに付きものの振動を抑えた事で、エンジンを剛性メンバーとする軽量で強靭なダイアモンド式フレームの採用が可能になりました。 また「XL250S」が注目を集めた特徴は、23インチのフロントホイールです。障害物を乗り越えるときにフロントタイヤが大きいほど楽に乗り越えることができます。具体的にはタイヤのサイズが19インチよりも21インチの方が走破性が高くなるので、オフロードバイクのほとんどが21インチです(この辺りの事情は現在のアドベンチャーバイクも同様)。 そこでホンダは、思い切って23インチの超大径フロントホイールを採用します。競技ではないオフロード走行は、目的地までの悪路を走破する難しさや、辿りついた時の達成感が醍醐味という人も多いでしょう。 軽く乗りやすい車体に4ストロークならでは低速トルクや好燃費、そして静かな排気音は多くのファンを獲得します。オフロード初心者が23インチホイールとともにその楽しさを知り、空前の林道ツーリングブームとなりました。