ドラゴンボールと「ハイヨー!シルバー!」モデラー鳥山明氏をしのぶ
前々回の最後に触れた、鳥山明氏がすご腕のプラモデラーだったという話を、もう少しだけ詳しく書く。 模型メーカーのタミヤ(静岡市)が主催する「タミヤ人形改造コンテスト」というものがある。タミヤは、1968年以来、「ミリタリーミニチュアシリーズ」という名称で、1/35(実物の35分の1の縮尺、スケール)の戦車や装甲車などのプラスチックモデル(プラモデル)を出しており、合わせて同スケールの各国兵士のフィギュア(人形)も販売している。乗り物と人形を組み合わせ、台座も作り込んで一つの風景を作る「ジオラマ(タミヤ的に言えば、情景)」という模型のジャンルがある。そのための人形だ。 人のいる風景を制作するためには、人形も固定されたポーズでは都合が悪い。1/35スケールだと、身長170cmの人は、5cm弱の大きさになる。思い通りのジオラマを制作するためには、その小さなフィギュアに様々なポーズをとらせるために腕やら足やらを切った貼ったして作り込む必要があるわけだ。 タミヤはこの人形改造というサブジャンルに目を付けて、1973年から「タミヤ人形改造コンテスト」を始めた。以来50年以上にわたって開催は続いている。その規則は「作品はおもにタミヤの 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズの兵隊人形を使用してください」という大変緩やかなもので、要するに1/35のフィギュアなら何でもありというものだ。 ●故・鳥山明氏はすご腕モデラー 結果、あちこちの腕利きのモデラーが我こそはと、第1位に相当する金賞を目指して応募してくるようになり、作品を見ているだけでも楽しいイベントとなった。題材も単なるミリタリーフィギュアのみならず、野球・サッカーなどのスポーツを題材にしたもの、名画や彫刻を模したもの、その年の大きな事件や芸能人・有名人を作り込んだもの、映画・マンガ・アニメ、はたまたテレビCMなどの一場面を再現したものなど、多岐にわたる。 百聞は一見にしかず。タミヤのホームページには歴代の入賞作品が掲載されているので、見たことのない方はぜひとも検索してください。 この人形改造コンテストに、鳥山氏は何度か応募していた。 中でも1986年の第14回コンテストで見事金賞を射止めた「ハイヨー!シルバー!」という作品は本当に見事なものだった(こちらもネットに画像があるのでぜひ検索を)。オートバイを駆る米軍ミリタリーポリス(MP)の姿を、デフォルメの効いたデザインで爽快な躍動感と共に表現している。これは間違いなく「3次元で1/35の鳥山明謹製イラスト」だ。もうデザインから塗装技術まで「参りました!」というほかない素晴らしい作品だった。 当時、鳥山氏は「ドラゴンボール」の連載でものすごく忙しかったと思うのだけれど、そんなことをみじんも感じさせない。 他にも、「無限軌道の会」というミリタリーモデラーの同好会が、名誉会員だった鳥山氏のデザインした「LISA」という女性兵士のイラストをそのまま立体化し、あろうことか金型まで起こしてプラモデルとして販売したこととか――製造業に従事する方はご存じでしょうが、金型ってものすごく高価で普通は趣味で起こすようなものではありません――「LISA」の仕掛け人は後に、趣味に没頭するあまり自らプラモメーカーを起業してしまった。スタジオジブリのアニメに出てくるキャラクターやメカニズムのプラモで知られるファインモールド(愛知県豊橋市)というメーカーだ。