城氏が語るアジア杯の森保J「突きつけられた厳しい現実と埋まらない控え組との差」「決勝Tサウジ戦は危うい?」
迷いのあった交替カード
ディフェンス面も、どこでボールを奪うのか、ブロックを作る位置はどこにするのか、という組織的な“約束事”が整理されていなかった。前半40分には、ウズベキスタンの縦への早い攻撃に反応できず、スルーパスを通され、槙野が裏を取られて先制点を許したが、これも組織ディフェンスの意思統一が欠けていたのが原因。 本来ならば、総入れ替えではなく、何人かを交替させながら、レギュラー組と控え組をマッチングさせコンビネーションを高めるべきだったのだろう。 私は控え組とレギュラー組に力の差があること、つまり全体の選手層の薄さを指摘してきたが、それらの課題は、まだ解消されてはいない。 この日の試合で、何らかの化学反応を起こせそうな可能性を示したのは、アクセントをつけることのできる乾、右サイドで存在感を示した室屋の2人くらいではないだろうか。 ただ2試合で3人しか交替枠を使わず交替カードの切り方に迷いがあった森保監督が、2-1の展開になってから原口、遠藤を入れ、アディショナルタイムには富安を投入するなど「守り勝つ」というメッセージを明確に伝えた采配には意義があった。 先日の乾の監督への直談判が波紋を広げたが、出場できない選手の立場からすれば、監督采配にメッセージ性がなければ「呼んだのになぜ使ってくれない」という不満が生まれチームの不協和音にもつながる。 おそらく森保監督は、そういう選手の心情を痛いほど理解しているのだろうが、こういうチームとしての方向性をハッキリと示すような采配には、試合に勝つだけでなく、チームをひとつにまとめる作用もある。 もちろん、酷暑の中で行われている大会で、レギュラー組に休養をとらせ、決勝Tへ向けてコンディションを整える効果もあった。
サウジアラビアの独特のリズムに要注意
次は「負けたら終わり」の決勝T初戦のサウジアラビア戦である。私は、この試合が「危うさ」と背中合わせの最大の山場になると見ている。 実は、日本にとっては2位抜けでオーストラリアと対戦した方が組みやすかった。オーストラリアは、フィジカルには優れているが、ヨーロッパスタイルのチームで、日本との相性はよく、対戦経験も多い。日本としては違和感なくゲームに入っていける相手だった。日程、移動についても2位抜けが楽だった。だが、サウジとなると、少々様子が違ってくる。 独特の攻守のリズムを持つ中東とアフリカンのミックスのようなチーム。しっかりと引いた堅い守備を基本にしたカウンターサッカーだが、想定外に足が伸びてきたり、突拍子もないシュートが飛んでくるなどという不気味さがあり、そこに戸惑うかもしれない。 しかも、日本は、1、2戦ではカウンターに対する守備の備えのミスで失点している。 勝利のポイントは、両サイドの攻防だろう。おそらくサウジは守備的に入ってくる。そこで長友、酒井が両サイドから、いかに仕掛けて崩せるか。守備で言えばカウンターに対するリスクマネージメントの徹底だろう。 経験値の高い吉田がリードするとは思うが、守るだけでなく、ボールを持った相手に対して「チャレンジ&カバー」を組織的に徹底して、日本も攻守の早い切り替えに勝機を見出したい。 サウジ戦を乗り越えれば、準々決勝ではヨルダンが出てくると予想される。ヨルダンは、つなぎのサッカーで、このチームならば、日本は十分に対応可能だろう。 決勝進出をかけた準決勝では、優勝候補と評判のイランと激突することになるのだろうが、いずれにしろ次のサウジ戦が最大の山場になることは間違いない。そして、森保監督が掲げた「全員守備」「全員攻撃」の日本の組織サッカーを1試合、1試合、積み重ねていくことが、頂点に立つために必要不可欠な条件となる。 (文責・城彰二/元日本代表FW)