お巡りさんは正義の味方、それとも… 昭和歌謡に歌われた警察のイメージ 職質や補導への思いも
社会の治安やモラルを守るために必要不可欠な警察。正義の味方として頼もしい一方で、時に不祥事もあり、そのイメージは必ずしも良いものばかりとは限らないのかも……。ここでは、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が、警察について歌った昭和の名曲たちを振り返りながら、当時の人々が警察に抱いていた思いを紹介します。 高齢の母が免許返納「すごいことです」白髪の警察官にかけられた温かい言葉 「ウルッときた」 ※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』2024年8月16日放送回より 【中将タカノリ(以下「中将」)】 菜津美ちゃんは警察にどんなイメージを持ってますか? 【橋本菜津美(以下「橋本」)】 うーん……もちろん、なくてはいけない存在だけど、交通違反の取り締まりとかで姑息さを感じるときはありますよね(笑)。でも、私は刑事ドラマが好きなので、基本的にはかっこいいイメージです。 【中将】 そうなんですよね。なかったら困るけど、人それぞれ細かな不満や異なるイメージを抱いている……それが警察だと思うんです。今回はそんな警察について歌われた昭和の名曲たちを紹介したいと思います。 【橋本】 警察の歌って、そんなにたくさんあるんですか? 【中将】 それがけっこうあるんですよ。当時の人々が警察にどんなイメージを抱いていたかを知る参考になると思います。まずは濃厚なところからご紹介しましょう。杉良太郎さんで『君は人のために死ねるか』(1980)。 【橋本】 これはいきなりすごい……語りと歌が入り混じって、なんとも言えない曲です。 【中将】 杉さん主演の刑事ドラマ『大捜査線』(フジテレビ)主題歌だったんですが、自ら作詞を手がけておられるんですよ。ヒットはしませんでしたが、悪と戦い死んだ若い警察官について、熱く、くどく歌い上げるその歌唱は、一部のマニアからカルトな人気を博しています。 【橋本】 独特の熱を感じます……最近はトランプ元大統領の狙撃事件もありましたし「人のために死ねるか」って複雑なテーマですよね。そういう使命感があるからかっこいいイメージが生まれるわけだし、でも家族の人は心配だろうし。 【中将】 正義に燃える警察官って、子どもは憧れますもんね。別に犠牲になれというわけじゃないけど、すべての警察官がそういう志を持っていてくれれば、大衆の不満もずいぶん薄まるでしょうね。では、次にご紹介する曲は曽根史郎さんで『若いお巡りさん』(1956)。正義感なんだろうけどベンチでいちゃつくカップルに「夜が更(ふ)けるから帰れ」と注意する、ちょっとウザいお巡(まわ)りさんです。 【橋本】 カップルからしたらそうですよね(笑)。年齢にもよるけど、成人していたらわざわざ言われたくないですよね。 【中将】 こういうテイストの警察ソングって、けっこう多いんですよ。昭和って今ほど治安も良くないし、青少年非行も盛んだったから、そういう影響ですかね。この曲がリリースされた1956年って、ようやく戦後の暗さから抜け出したような時代だけど、その20年後にまったく同じテーマの曲が大ヒットします。ピンクレディーで『ペッパー警部』(1976)。 【橋本】 ほんまや……(笑)。いちゃつくカップルにペッパー警部が「もしもし君たち帰りなさい」って言ってますね! 【中将】 よほど遅い時間なのかと思いきや、まだ「たそがれどき」ですよ。多くの自治体では青少年を深夜外出させてはならないという青少年保護育成条例がもうけられていますが、補導対象となるのはだいたい午後10時か11時以降。夕方に「家に帰れ」と言うのは明らかに越権行為ですね。 【橋本】 文句言われる筋合いないですね! 【中将】 菜津美ちゃんは10代の時に周りの人が補導されるようなことってありましたか? 【橋本】 私が10代を過ごしたのは川西(市)のちょっと田舎のほうなので、夜はほんとに危なかったんですよ。だから補導じゃないけど夜8時、9時に自転車で走っていたら、お巡りさんから声をかけられることはありましたね。 【中将】 田舎のほうだとそういう声かけがあるんですね。僕が通った高校は厳しめの進学校だったんですけど、夜10時過ぎまで居残りで勉強させられるようなことがよくあったんですよ。条例通りに取り締まったら、学校出た瞬間に補導されちゃうかもしれない(笑)。 【橋本】 補導って拒否できないんですか? 【中将】 調べたんですが、補導はあくまで任意なので拒否できます。でも応じていったん補導されてしまうと、基本的には保護者が引き取りに来るまで拘束されることになります。 【橋本】 これは知っておいたほうがいい情報ですね! 【中将】 お次は職務質問について歌った警察ソングです。泉谷しげるさんで『黒いカバン』(1972)。警官に「おい、ちょっと」と呼び止められ、さも当然のようにカバンの中を見せろと言われた若者の憤りを歌った曲です。 【橋本】 以前、中将さんも職務質問されて怒ってましたね! 【中将】 JR神戸駅の近くで仕事の電話をしてたら急に呼び止められてカバンの中身を見せろと言われたんですよ。一連の物言いが非常に威圧的で無礼だったので徹底拒否して、県警本部にクレーム入れて謝罪してもらいました。 【橋本】 威圧的にこられると普通に怖いですよね。 【中将】 『黒いカバン』の時代のように学生運動とかがあるわけじゃないんだから、あくまで笑顔で丁寧に、こちらに拒否権があることもわきまえて仕事しないとダメですよ。市民にとっては一番身近な国家権力なんだからね。 【橋本】 私も昔、お巡りさんがいきなり家に来て「家族の名簿を書いてください」と言われて断ったら、すごく威圧的な態度をとられたことがあります。普通に一人きりだったから人を家に入れるのが怖かっただけなんですけど……。 【中将】 巡回訪問ってやつですね。これも誰しもタイミングが悪い時や正当な事情もあるはずだから、威圧的にすべきものではないですよね。最後の曲もそんなあたりのことを厳しく指摘する曲です。所ジョージさんで『車庫証明騒動歌』(1983)。車庫証明を取りに警察署を訪れた際の警察官の態度について怒る曲です。「悔しかったら腰の6連発を抜いてみろ」とか言っちゃうあたり、なかなかのロックスピリッツ! 【橋本】 所さんの歌詞って切り取り方が独特で好きです(笑)。しかし、一部の警察の方が放つあの威圧感って何なんでしょうか? ナメられたくないとか、そういう感じなんでしょうか。 【中将】 ほんと一部の人のせいで、組織全体がおかしく見えてしまいかねない感じはありますよね。 【橋本】 子どもの頃、財布を落としてしまい、交番に行ったときのお巡りさんの対応はとても優しくて感激したのを思い出します。みんな、子どもたちに正義のヒーローと思ってもらえるような警察官でいてほしいですね。
ラジオ関西