「いままで言わないで来たんですけど…」鈴木志乃が語るチャンピオンベルトへの思い
◇私もチャンピオンベルトを巻きたい! たしかに初勝利をマークしたことで、もう観客も「鈴木志乃がいるから、こっちのチームの負け確定」とは決めつけなくなった。それどころか「今日も勝ってくれるんじゃないか?」と期待をこめて観戦してくれるようになってきた。 たかが1勝、されど1勝。 たった3秒間、相手の肩をマットにつけただけでプロレスラー・鈴木志乃の人生は大きく変わった、と、思ったのだが……。 「初勝利から今(インタビューは9月に実施)まで、一度も勝てていないんですよ(苦笑)。あの初勝利はまぐれだった、と言われちゃうぐらいで……(※その後、10・13春日部でのタッグマッチで、自力勝利をあげる)」 これが野球選手だったら、もはやスタメン落ち、2軍落ちは免れないが、どんなに勝てなくてもファンに支持されれば、負けても負けても評価されるのが、プロレスの世界。変な話、そう割りきってしまえば、プロレスラーとして独自のポジションを手に入れることも可能だ。 しかし、鈴木志乃は覚悟を決めた表情でこう語った。 「これはいままで言わないで来たんですけど……胸に秘めたままで言葉にしないと、何も変わらないのでここで言っちゃいます。まだ一回しか勝ったことがないのに、なにを言うんだって笑われるかもしれないですけど、プロレスラーになったからには、いつか! 私もチャンピオンベルトを巻きたいです!!」 チャンピオンになるには、まず挑戦者として指名されなくてはいけない。挑戦者として認められるには、当然のことながら勝利を積み重ねなくてはいけない。そのチャンスをイッキに引き寄せることができる格好の舞台が10月に開幕した『ねくじぇねトーナメント’24』。 これは2023年と2024年にデビューした8選手によるトーナメント。鈴木志乃にとっては同期と後輩しかいない戦場は勝利の大チャンスである。1回戦の相手は後輩のキラ・サマー。ここを突破すると2回戦は初勝利をマークした相手・凍雅と当たる。 こうなると、いつかチャンピオンに、という決意の言葉も一気に現実味を帯びてくる。そんなこともあって、このインタビューの掲載をトーナメントの結果が出るまで温めてきたのだが……なんと鈴木志乃は1回戦で後輩に屈辱のフォール負け。「いつか!」の夢に向けての道は、2025年に向けて、仕切り直しとなった。 逆にこの記事で鈴木志乃に興味を持った、という方はぜひ、ここからずっと追いかけていってもらいたい。いつになるかわからないが、チャンピオンベルトを腰に巻く瞬間をリアルタイムで目撃できたら、とんでもない感動を味わえるはず。鈴木志乃は「今、いちばん推すべき女子プロレスラー」といっても過言ではないのだ。 勝てない、弱い、といってもプロレスラーであり、日々、練習も重ねている。 本人いわく「ほかの選手も一生懸命練習しているから、なかなか追いつけない」。だが、間違いなく地力はアップしている。 それを実感したのが、6月に出演した『ぽかぽか』(フジテレビ系列)でのこと。レスリングの金メダリスト・登坂絵莉さんを30秒間のうちにひっくり返すことができれば勝利、というコーナーに鈴木志乃がチャレンジしたのだ。 出演することを知らず、たまたま自宅で見ていた筆者は不安でいっぱいになった。登坂絵莉さんがビクともしなかったら(実際、そういうケースは多々ある)、プロレスラーとしての評価を下げてしまうことになる。これ、大丈夫なのか、と。 結果、ひっくり返すことはできなかったが、見事に登坂絵莉の体を浮かせ、終了後、金メダリストから「やっぱりプロレスラーは強いですね」というコメントを引き出した。ここまでパワーとテクニックがあるのに、プロレスのリングでは連敗続き、という現実は、逆説的に他の女子プロレスラーの強さを知らしめることにもなった。 本人も「めちゃくちゃ緊張したし、プレッシャーがすごかった」と振り返るが、あの日、見せてくれた意外な底力はある日、突然、プロレスラーとして覚醒するかもしれない、という淡い期待すら抱かせてくれた。 ◇アイドルとしてTIFの舞台に復帰したい 彼女にはもうひとつ、2025年に一発逆転しなくてはいけないことがある。それはアイドルとしての大きな宿題、だ。 昨年までアップアップガールズ(プロレス)は真夏の一大イベント『トーキョーアイドルフェスティバル(TIF)』に参加しつづけきたのだが、今年は残念ながら出演がかなわなかった。 チャンピオンベルトを掲げてTIFのステージに立ちたい、と熱望していた渡辺未詩はがっくりと肩を落としたが(しかもTIF初日の裏で開催されたトーナメントでまさかの敗北、という地獄のような展開に……)、鈴木志乃は「あぁ、そうなんだ」と軽く受け止めていた。 「でも、プライベートでTIFを見に行ったら、そこに自分たちがいないことに腹が立ってきて……ものすごく悔しくなってきたんですよ。私は加入した年から当たり前のように出演できましたけど、ずっと活動している未詩さんやらくさんは、もっと悔しいんだろうなって。 じつは、メンバー全員がそれぞれTIFの会場に足を運んでいて、みんな“来年は絶対に出ようね”って。あんまりアイドルグループとして明確な目標がなかったので、全員が同じ方向を見て、動き出せたような気がしてうれしかったし、気合も入りました。TIFならではのスカイステージ(湾岸スタジオの屋上に設置され、青空とお台場の絶景をバックにパフォーマンスできる、文字通り、アイドルにとっての晴れ舞台)に立ちたいなって。 もともとアイドルになりたくて、アプガプロレスに入ったのに、いつのまにかプロレスのことばかり考えるようになっていた自分に気がついてハッとしました。プロレスとアイドル、両方で結果を残せてこその二刀流じゃないですか? だからプロレスの練習はしっかり続けながら、アイドルとしてもがんばりたい。 さっそく会社に『ボイストレーニングの時間をもっと増やしてください!』ってお願いしました。じつは、今日もこの取材の前にダンスのレッスンを受けてきたんですよ。撮影があるのに髪の毛がボサボサでごめんなさい(苦笑)」 昨年からアイドルとしての活動を本格的に再開しているアップアップガールズ(プロレス)だけに(コロナ禍でしばらくライブ活動ができていなかった)、この心意気と日々の鍛錬はすぐにでもステージに反映されるはず。リングだけでなく、アイドルとしての活動にもぜひ注目していただきたい。物語は同時進行しているのだから。 プロレスラーとして、チャンピオン。 アイドルとして、TIFのステージに復帰。 鈴木志乃の2025年はひと足早くはじまっている––。 (取材:小島 和宏)
NewsCrunch編集部