『上垣アナの災害遺構探訪記』災害復興のまちから私が学んだこと 【連載#2】
自然災害の歴史から防災を学ぶ、「災害遺構プロジェクト」。 あなたの地域で、過去にどんな災害が起きたのか? 全国の災害遺構をめぐり、先人たちが遺したメッセージや災害の爪痕から、 社会科の教員免許をもつ、 フジテレビの上垣皓太朗アナウンサーが災害の歴史を解説。 また、防災士の視点から、防災に役立つ知識を紹介します。 【写真10枚】『上垣アナの災害遺構探訪記』災害復興のまちから私が学んだこと 連載#2の写真を見る
のどかな山あいのまちで起きた豪雨被害
上垣アナ: みなさんこんにちは。フジテレビアナウンサーの上垣皓太朗です。 私の防災への関心を綴るとき、この地域に触れないわけにはいきません。 愛媛県西予市野村町。2018年の西日本豪雨の被災地の1つです。 災害名:西日本豪雨(2018年7月5日~8日) 西日本豪雨は広域で被害を出した災害でした。松山から車で1時間半、相撲文化に彩られた山あいのまちでも、河川氾濫、浸水被害や土砂崩れ、土石流などが発生。6人(災害関連死を含む)が亡くなったほか、1000を超える建物被害がありました。 場所:愛媛県西予市野村町野村4号3番地1(防災広場内) この被害を忘れないという思いと、復興への願いを込め、2024年の春に防災公園「どすこいパーク」ができました。 祈念碑が建てられ、空間全体が災害遺構としての役割を果たすよう設計されています。 「どすこいパーク」の愛称は、この地で江戸時代から続く乙亥(おとい)大相撲という火鎮擁護祈願の奉納相撲が由来になっており、毎年秋には、まちをあげての一大イベントが行われています。
私の原動力 高校生から学んだ地域の防災教育
上垣アナ: まちを見下ろす愛宕山の展望台から「ヤッホー」と叫ぶと、肱川沿いから知り合いが手を振り返してくれて、「聞こえたよ」と電話で教えてくれたなあ。 東京に来ても忘れられない記憶。 野村町は、私が防災士の資格を取得するきっかけにもなった、大学時代の思い出の場所です。 大学が「地域での教育に直接触れられる場を」と、教職課程の学生だった私に、野村町の教育の取り組みを学ぶ機会をくれました。 兵庫県出身で愛媛に行ったこともなかった私が、野村町の子どもたちや大人たちと出会い、ともに学びながら災害復興や防災まちづくりに関わる時間を過ごすことになったのです。 たとえば、地元の高校生によるイベント「全国高校生まちづくりサミット2022 in のむら」。北海道から宮崎まで、それぞれの地域でユニークな活動に取り組む高校生が野村に集まり、防災などについて話し合いました。 豪雨で氾濫した川沿いを地元の高校生とともに歩いたり、夜はみんなで災害時に使う段ボールベッドを組み立てて寝てみたりと、いきいきと学んだ3日間のサミット。 その中で地元の高校生たちが取り組んでいたのは、無理して被災の経験を話すことではなく、全国から来た人とふれあって、野村町のこと、野村町のよさを伝えることでした。自分たちにとっての「当たり前」を、初めての人に伝えようと知恵をしぼる姿が印象的でした。 「どうしてサミットをやりたかったの?」 仕組みづくりを大人が主導しながら進めていたので、高校生が取り残されていないだろうかと気になって、それとなく聞いてみました。私の問いに、シンプルな答えを返してくれました。 「野村に来てほしいから」 私は、はっとしました。 野村町周辺で生まれ育った生徒にとっては、県外から、ましてや四国の外からの同世代の来訪者と出会うことは、めったにない新鮮な体験だったのです。 高校生たちの「地域の外の人たちに会いたい、来てほしい」という素朴な思いこそが、地域内外の関係の出発点になり、防災をともに考える機会が生まれたのかもしれません。 生徒たちが、サミットの実現に向けて、はじめは口ごもりながらも大人たちに要望を伝え、話し合いを重ねるうちに、どんどん成長していく様子を、私は目撃しました。文化祭のような学校行事にも通じることですが、野村町の高校生の場合は、そんな多くの人が通る「大人になる」過程に、防災について考える機会が織り込まれていたのです。 いまも、野村町には他の地域から大勢の大学生が訪れては、防災を学んでいます。私も、素敵な元・高校生たち(みなさん、もちろん次のステップに進んでいます)とともに野村で学んだひとりです。 秋には「野村ではそろそろ乙亥大相撲の季節だなあ」と思いながら、東京で働いています。
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