箱根は陸上界にとって悪か善か
今井はニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)で活躍すると、昨年の別府大分マラソンで2時間9分23秒をマーク。壁となっていた2時間10分を突破して、大学4年時の箱根駅伝以来、実に7年1カ月ぶりに専門誌の表紙を飾った。ロンドン五輪代表の座をつかむことはできなかったが、2016年リオ五輪が現実的な目標になっている。 東海大時代に箱根駅伝で3年連続「区間新」を叩き出した佐藤悠基(日清食品グループ)は、昨年までに日本選手権1万mで4連覇を達成。ロンドン五輪とモスクワ世界選手権に出場するなど、箱根を卒業した後も、日本長距離界のエースとして君臨している。大学時代に燃え尽きてしまう選手は少なくないが、佐藤はこう分析している。 「学生時代は箱根駅伝というとてつもないモチベーションがあって、ほとんどの選手がそこに向かっている。実業団でも、ニューイヤー駅伝がありますが、箱根ほどのモチベーションにはなりません。かといって、『世界』を本当に意識している選手は少ないと思います。実業団で成長できない選手は、そういうモチベーションの中で、コーチから言われたメニューをこなしているだけにしか見えない。自分が具体的にどこまで行きたいのか。ダメな選手は明確な目標がないんじゃないでしょうか」 箱根駅伝で満足してしまうのか。それとも「世界」を見据えて、真摯に取り組むことができるか。その“差”が箱根後の人生を変えているようだ。 男子マラソンで2012年のロンドン五輪で6位、翌年のモスクワ世界陸上でも5位に食い込んだ中本健太郎(安川電機)も元箱根ランナーだ。拓殖大では4年時に7区を任されて、区間16位。その程度の選手がオリンピックで活躍できると誰が予想できただろうか。控えめなヒーローは、「箱根を目指している選手のなかには、自分に似た境遇の人がたくさんいる。どこで花開くかわからなので、競技を続ける環境があれば、あきらめずにがんばってほしい」と話す。