箱根は陸上界にとって悪か善か
次は神野大地が“十字架”を背負うことになるのだろうか。 青学大の初優勝で幕を閉じた正月の箱根駅伝の熱気も冷めないまま18日、広島で行われた全国都道府県対抗男子駅伝では、埼玉が初優勝。ゴールテープを切ったアンカーの服部翔太(ホンダ)も昨年までは日体大の主将として箱根を走ったランナー。新「山の神」と注目を集めた神野大地は、愛知のアンカーを任されたが、1区から2区でタスキが渡らずチームは失格。それでも個人の区間記録は認められるため、27番目でタスキを受けると、区間3位となる37分36秒の好タイムで一気に12人抜きを演じて存在感を示した。 箱根で名を馳せたランナーの活躍が目立ったが、学生時代の輝きがまぶしいと、大学卒業後の姿が色褪せて見えてしまうことがある。特に箱根5区でスターになった選手たちの現実は厳しい。彼らは社会人でもヒーローになることを期待されるが、もう「山」で戦うことはないのだから。 「山の神」として箱根路で無敵を誇った東洋大・柏原竜二(現・富士通)も大学卒業後は苦戦している。トラックで学生時代の記録を更新できず、駅伝でも散々。マラソンには一度も参戦できていない。今回の都道府県対抗駅伝では、柏原は千葉代表として3区を走ったが区間23位と苦戦した。彼らのように注目を集めた選手が活躍できないと、「箱根経験者は大成しない」というバッシングを浴びることもある。 箱根駅伝は陸上界にとって「善」なのか、それとも「悪」なのか。 元祖・山の神と称えられた今井正人(トヨタ自動車九州)もかつてメディアの“犠牲”になった。今井は順天堂大時代に5区で3年連続して「区間記録」を樹立。箱根のヒーローは、大学卒業後“ロンドン五輪の星”として熱い視線が注がれた。今井が走るとマスコミが取り囲み、翌日のスポーツ紙に記事が載った。そこには本人の意思とは関係なく、「山の神」という言葉が並んだ。その当時を今井はこう振り返る。 「大学卒業後も『山の神』などと言われることは、周囲の評価であって、自分の中では何も感じていません。もう箱根を走ることはないですし、周囲からどんな目で見られても、自分さえブレなければ大丈夫だと思って、競技を続けてきました。失敗レース後に取材を受けるときは正直、情けない気持ちになりますが、注目されなくなったら終わりだと思うので、取材されることをモチベーションにしていました」