若作りの老人を「老い損なった」と評するのが面白い 川本三郎「私が選んだ本ベスト5」夏休みお薦めガイド(レビュー)
仙台在住の佐伯一麦の『ミチノオク』は、道の奥、つまり東北各地を旅する紀行小説。秋田県羽後町の西馬音内から岩手県の遠野郷まで九つの旅。 東日本大震災を経験した作家だけに、旅では随所で死を考える。東北には死者と共に生きる文化があるという指摘が重い。
昭和七年生まれの黒井千次の『老いの深み』は九十歳になろうとする自分自身の一種の観察記。 昨日まで出来たことが出来なくなる。老いには悲しいことが多いが、それを自然なことと受入れる。 無理して若くあろうとする老人を「老い損った」人と評するのが面白い。 一日一度は近所を歩く。時折り遠くを見る。そうやって老いを受入れ、穏やかな日々を送る。かくありたい。 [レビュアー]川本三郎(評論家) 1944年、東京生まれ。文学、映画、東京、旅を中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『小説を、映画を、鉄道が走る』(交通図書賞)、『マイ・バック・ページ』『いまも、君を想う』『今ひとたびの戦後日本映画』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』などがある。最新作は『物語の向こうに時代が見える』。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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