周りを楽しませるために”自分”をも騙して「嘘」をつく…男たちを虜にした伝説の踊り子の知られざる「素顔」
無縁仏の葬儀
加藤は「炊き出しの会」の稲垣浩に電話を入れ、葬儀について相談している。 「炊き出し」活動は年中無休だが、稲垣は日曜を休日にしている。そのため彼はこの日、事務所にいなかった。加藤はなんとか稲垣に連絡をつけた。 「恥ずかしくない葬儀にしたいんです」 「そやけど、池田さんにはおカネがないでしょう。小さくても、心のこもった葬式にしましょうよ」 見栄を張った葬儀ほど、馬鹿馬鹿しい最後はないと稲垣は考えていた。肩書のある人間の葬儀は確かに華やかだ。ただ、参列者は心から故人を偲んでいるのだろうか。稲垣は年に何度も、身寄りのない者、家族との縁の薄い者との別れを経験している。心から故人を惜しむ者だけで見送ったほうが、本人は喜ぶはずである。稲垣はそう考えていた。 1人暮らしの者が亡くなった場合、行政はまず家族と連絡をとる。それができなかった場合、生活保護の葬祭扶助(当時約18万円)が葬儀代に充てられる。一条にもこの制度が適用された。 釜ケ崎では、家族と縁を切り、行き倒れのように亡くなる者が少なくない。火葬許可証の申請者さえ見つからない場合もある。 火葬許可証は、親族だけでなく家屋管理人、家族以外の同居人、家主・地主でも申請できる。しかし、年に何人かは、まったく住むところを定めず、孤独のまま道端で生涯を終える。通りがかりの誰かが、冷たくなった亡きがらを見つけ警察や消防に連絡する。 そうした場合、遺体は区長が申請する形で荼毘に付される。当然、人生の最後の儀式もない。骨は業者が1年間預かり、それでも引き取り手が現れない場合、業者の斎場に集められる。一条が口にした無縁仏である。
小倉 孝保(ノンフィクション作家)