”人間”が利他的なのは”遺伝子”が利己的だから!?…生物学者が唱えた「モラルと進化の謎」を紐解く衝撃の視点
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第22回 『「生存に不利」なはずなのになぜ我々人間には「モラル」があるのか…科学者たちが奮闘の末に解き明かした人類の進化の「謎」』より続く
進化論を用いた道徳的行動の説明
道徳的行動の基本パターンは、進化論を用いて説明できる。利他的行動には犠牲が伴う―この点は正しい。それでもなお、狡猾な他集団を敵にした乏しい資源をめぐる戦いでは協調的な行動をとることに長期的な利があることを示すメカニズムが知られている。 進化論は、陰鬱で情け容赦ない生命像を描いているように見える。生物界は繁栄と没落を賭けた終わることのない無慈悲な争いに満ちている。そこでは、弱者は犠牲になるだけだ。強者だけが生き残り、有望な子孫を、つまり遺伝子を残す。自分の遺伝子のコピーを次の世代に送り出す。そこは勝者にすべてが与えられ、敗者には居場所すらない冷酷な世界だ。 ひどい話に聞こえるだろうが、現実ははるかに陰惨だ。それを理解するには、最終的には誰が進化の選択圧から優遇され、誰が排除されることになるのかを明らかにする必要がある。勝ち残ろうと努力する個体だろうか?地表を占める種全体だろうか?そのどちらでもない。実際のところ、進化の過程において選択によって運命が決められる最小単位は“遺伝子”だ。
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