”人間”が利他的なのは”遺伝子”が利己的だから!?…生物学者が唱えた「モラルと進化の謎」を紐解く衝撃の視点
誤解されたドーキンスの「利己的な遺伝子」
この遺伝子を中心とする考え方は、20世紀の後半におもにイギリス人遺伝生物学者のリチャード・ドーキンスによって広められた。ドーキンスの書いた『利己的な遺伝子』は史上最も誤解されたタイトルの本と言えるだろう。 読者の多くは、『利己的な遺伝子』が、人間も含めたあらゆる生物は、前記のような生存競争を通じて、本質的にそして改善の余地もなく冷酷で反社会的な存在に進化し、つねに自分の利益だけを考え、たまに道徳的な優しさを見せることがあっても、それは打算もしくは偽善から生じた一時的な態度でしかないと言いたいのだと理解した。 しかし、同書はまったく逆を主張している。“遺伝子”が利己的だからこそ人間は利他的にふるまうのだ。私たちが何をしようと遺伝子は気にしない。だからこそ、私たちは道徳的な存在になれた。私たち人間(そしてあらゆる生物)は実際のところ、分子という主人のためだけに生きる無私無欲な奴隷でしかない。 これは進化論におけるコペルニクス的な発想の転換であり、それを明らかにするためにドーキンスは「複製子」と「乗り物」を区別した。複製子は自己の複製をつくる。乗り物は、複製子が自己複製する際に用いる手段だ。“私たち”こそ、この乗り物だ。 『「DNAの大半が“遺伝情報”を持たない理由」を完璧に説明する衝撃的な“発想の転換”…「遺伝子」は「人間」のために存在しているのでは』へ続く
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭
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