『透明なわたしたち』松本優作監督×編集:松岡勇磨 感情をつなげる編集とは 【Director’s Interview Vol.437】
“自分の居場所”をさがす物語
Q:本作はオリジナル脚本ですが、物語はどのようにして作られたのでしょうか。 松本:企画書の冒頭には「富山と東京という二つの場所で、現在と過去を行き来する青春群像劇を作りたい」と書かれていて、実際に富山に足を運びながら、皆で一から脚本を作っていきました。僕自身、社会的なテーマをこれまでも扱ってきたので、それを生かせるような、ある種の集大成になればと思っていました。映画業界に入り10年が経ちましたが、この10年で培ってきたものを全部出し切りたい。20代で社会に出て、色んな経験を経て30代になっていく感じを描ければと。 「自分って何だろう」と自分の居場所を探すことは、大人になる過程でよくあります。そういった経験を経て、自分の居場所を知り、それを受け入れて生きていくことになる。この作品では、まさにその流れを描いています。同じような悩みを抱えている人たちはぜひ観て欲しいですね。今苦しんでいる人たちが作品を観ることで、一歩前に踏み出せるようになればと願っています。 Q:松岡さんは脚本を読んだ印象はいかがでしたか。 松岡:“自分の居場所”という内容が刺さりすぎて、これは自分の話だと思っていました。 Q:テーマに加えて今回はサスペンスの要素も孕んできます。 松本:今回のテーマは身構えてしまうし手に取りにくいものですが、それでも多くの人に観て欲しい。間口を広げる意味でも、サスペンスを表に出すことにしました。昨年、LAに勉強に行き、ハリウッドのプロデューサーや制作会社の方に話を伺ったのですが、それが参考になりましたね。訴えたいことがあるときは、ジャンルを前に出すことで観てもらえる可能性が一気に高くなる。ただ「こういうことを訴えたいんだ」とストレートに発しても、独り善がりとなってしまい届けたいところに届かなくなる。 Q:フィクションとリアルのバランスが、いい塩梅で構成されていました。 松本:僕は取材を大事にしています。週刊誌の記者や、ベンチャー企業の若手CEO、富山に暮らしている職人の方など、いろんな人たちに取材をしていく中で立体感が作られていきました。自分たちの想像だけで作ってしまうと、どうしても小さくまとまってしまう。いろんな人の話を聞き、その人たちの欠片を積み重ねていくような作業でした。 また、この作品を作りながら、自分たち自身も今の社会を知っていく感覚がありました。そこはオリジナルならではの経験でしたね。
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