年末ボクシング6大世界戦。本当に見るべき試合はどれか?
平成最後のボクシングの年末世界戦ラッシュが今年もやってくる。米国のボクシング専門サイトである「ボクシング・シーン・ドットコム」が、わざわざ紹介するほど日本のトップボクサーが年末に世界戦をまとめて行うイベントは世界的な注目を集めている。年末に複数の世界戦が行われる背景には、テレビ局の視聴率争いと、年末ゆえに拡大される特別の製作予算などがあるのだが、今回は、今日30日に大田区総合体育館で行われるトリプル世界戦と、明日大晦日にマカオで行われるトリプル世界戦の計6試合を独断と偏見で紹介したい。6大世界戦で、本当に見るべき試合はどれなのか。 筆者一人では、あまりに意見が偏るので理論派で知られる元WBA世界スーパーフライ級王者、飯田覚士氏の意見を交えながら考察してみたい。 プロボクシングの魅力が感動や予測不能の衝撃にあるのならば、筆者が最も楽しみな試合は、“モンスター”WBA世界バンタム級王者、井上尚弥(25、大橋)の実弟であるWBC同級5位の拓真(23、大橋)が同級2位のペッチ・CPフレッシュマート(25、タイ)と争うWBC世界バンタム級暫定王座決定戦だ。 暫定世界戦への論議はあるのだろうが、同王座は名王者、山中慎介が体重超過の“インチキ野郎”、ルイス・ネリ(24、メキシコ)からのタイトル奪還に失敗して以来、空位となっていて、正規の王座決定戦が、8か月以上もまとまらなかったという事情がある。暫定王者は、来年1月19日に行われる正規王座決定戦の勝者と統一戦を行う予定となっている。 拓真は2年前に内定していた世界戦を怪我で流し、そこから試練のカードをコツコツと勝ち進んで世界挑戦切符を手にした。 「怪我をしてからの2年間で、ベテランとも試合がやれて経験値が上がった。この時間は僕にとって有意義だった」と語っているが、スポットライトを浴びる兄の影に隠れながら、地道な努力を続けてきた。その心情は複雑だっただろう。 「兄の尚弥だけでなく弟の拓真もいるんだぞというところを全国へ見せたい」の言葉は心の叫び。やっと日の目を浴びた次男坊の晴れ舞台には、似たような境遇を味わったことのある観戦者を共感させるものがある。 相手のペッチは長身のサウスポー。 48勝33KO無敗のキャリアを誇るが、強敵とのマッチメイクはなく、タイから同行取材できた新聞記者も「タイでやれば70パーセントの確率でペッチが勝つだろうが、日本なら50-50じゃないか」と予想するレベル。いなされ、ペースをつかまれるのが怖いが、大橋ジムには、3階級制覇の八重樫東が過去にサウスポーを撃沈してきた歴史があり、対サウスポーのメソッドは多い。 いかにインサイドに入りペースを握れるか。左の使い方と手数がポイントになる。兄がリングに上がり専属トレーナーの父・真吾さんと抱き合うシーンが目に浮かぶ。この夜の主役は弟。計量後「試合が楽しみで仕方がない」と語った。 飯田氏が「来年以降の大きな未来が開けるかどうかのボクシング人生をかけた試合になるから面白い」とピックアップした2試合が、WBO世界スーパーフェザー級王者、伊藤雅雪(27、伴流)が1位の指名挑戦者、エフゲニー・チュプラコフ(28、ロシア)を迎える初防衛戦と、マカオで井岡一翔(29)がWBO世界スーパーフライ級王座決定戦で同級1位のドニー・ニエテス(36、フィリピン)と戦う4階級制覇をかけた2つの世界戦だ。 ボクシングの魅力のひとつに記録があるのならば、井岡が4階級制覇を成し遂げれば日本人初。そして伊藤も日本人ボクサーとして37年ぶりに米国で世界タイトルを獲得、今回は、初の凱旋帰国試合となる。 「伊藤は日本のファンに自分のボクシングを見てもらう大きな舞台。勝ち方によっては、来年に向けて人気も評価も上がる。井岡も勝てば統一戦など、さらにビッグマッチが計画されて未来が開けるでしょう。でも、逆に2人共にもし負けると、次がない、という崖っぷちマッチでもあります。そういうギリギリの状況でリングに立つ新しい年号のスター候補の試合が僕は一番気になるところです」 飯田氏の見立てでは「チュプラコフはアマ経験が豊富で技術力は高いがパンチ力はそうありません。体格でも伊藤が勝ります。彼がアメリカでベルトを取った試合のように常に攻撃的に攻めてリングの真ん中で主導権を握れば初防衛は果たせると思います。井岡も前回のアローヨ戦では、前に出て打ち合いましたが、この試合は、これまでのような出入りのボクシングに徹すれば、徐々にペースとポイントを奪っていく展開になるのではないでしょうか。接戦にはなると思いますが、戦略が大事になるでしょうね」という予想だ。