「首相の専権事項」衆院解散めぐる首相の権限とは? 早稲田塾講師・坂東太郎のよくわかる時事用語
安倍晋三首相が2014年11月21日、衆議院を解散しました。任期(4年)を約2年残してです。解散とは衆議院議員の全員を“クビ”にする行為。新たに選び直す総選挙が12月14日と予定されています。 【図表】小泉「郵政解散」を意識? 平成以降の解散事例 ところで首相が、国会会期中にふと「解散してみようかな」と思って実行すれば、誰も止められません。その権限はどこから来るのでしょうか。
「内閣の助言と承認」による天皇の国事行為
そもそも衆参両院の任期4年の規定は 1)1889年に制定された衆議院議員選挙法から戦前(厳密には1947年の日本国憲法施行まで)の大半が「任期4年」だったので基本的に踏襲した 2)敗戦(1945年)後に日本を占領した連合国軍最高司令官総司令部による新憲法(後の日本国憲法)の「総司令部案」も4年だった あたりが根拠のようです。 同時に戦前も戦後も衆議院は「解散」される可能性を法律に明記してきました。日本国憲法にも「任期4年」と定めた45条は「但し」として「衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する」と続けています。 今回の解散は憲法7条に基づきます。「天皇は、内閣の助言と承認により」行う国事行為の1つが「衆議院を解散する」です。主語は「天皇」なのです。 しかし天皇陛下は「内閣の助言と承認により」解散するとあります。では天皇が「助言と承認」にNOがいえるかというと憲法3条で「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要と」するとあり、4条にも「国政に関する権能を有しない」と規定されているためYESしか回答はあり得ません。となると実質的な主語は「内閣」となります。 国会閉会中でも首相が解散したくなったらできます。憲法53条に「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる」とあるからです。内閣を首相と読み替えて構わないという理由は前述の通り。臨時国会を召集して冒頭解散も可能です。
「閣僚の反対」「内閣不信任」でも阻止できず
では内閣とは何でしょうか。66条で「首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する」とあり、68条1項で「内閣総理大臣は、国務大臣を任命する」と定められます。国務大臣の選任に国会の同意は要りません。したがって首相は自身の賛同者のみで「内閣」を構成できますから内閣の意思とは首相の意思なのです。 もっとも任命時はそうでも、今解散するのはおかしいと反発する国務大臣が出てくる可能性はあります。内閣の決定は全員一致が原則なので「解散反対」の大臣を抱えてはできません。 ここで憲法68条2項「内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる」が効力を発揮します。首相がどうしても解散したければ反対大臣を罷免(クビ)して賛成派にすげ替えるか、その任を首相と兼務してしまえば不一致は生じません。首相以外の全大臣が反対しても話は同じ。全員クビにして「1人内閣」を作れるのです。肩書きは一瞬、 首相兼総務大臣兼法務大臣外務大臣兼財務大臣兼文部科学大臣兼厚生労働大臣兼農林水産大臣兼経済産業大臣兼国土交通大臣兼環境大臣兼防衛大臣兼国家公安委員長兼官房長官など となりましょう。憲法は国務大臣の「過半数は、国会議員の中から」と定めるも首相自身は67条で「国会議員の中から」と国会で指名されているので「1人内閣」の国会議員率は100%となり問題なし。つまり首相が解散の信念を変えなければ誰がどうしても阻めないのです。