「首相の専権事項」衆院解散めぐる首相の権限とは? 早稲田塾講師・坂東太郎のよくわかる時事用語
「7条解散」と「69条解散」
では首相1人が完全に浮いてしまって、野党(首相の味方以外)どころか与党(首相の味方)もすべて解散に反対という超孤立無援状態になったらどうでしょうか。党のトップ(自民党ならば総裁)からは引きずり降ろせそう。でも首相職は国会の指名なので辞めさせられません。どうしてもとなれば憲法69条の衆議院内閣不信任決議案を可決させるしかありません。与野党こぞって「不信任」ならばそこまではこぎ着けられます。ところが69条は不信任決議に対して首相に2つの選択肢を与えています。「衆議院解散」か「内閣総辞職」です。すなわち不信任決議ですら首相から解散権を奪えません。 「69条解散」はともかく「7条解散」は憲法があまり想定していない違憲行為ではないかとの異論も前からありました。ここで頼るのは「一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所」(81条)であるが最高裁判所です。しかし最高裁は1960年6月8日「衆議院解散の効力は、訴訟の前提問題としても、裁判所の審査権限の外にある」と判断を避けたまま。 というわけで7条解散はできてしまうのです。
解散時になぜ「万歳三唱」?
後は「衆議院を解散しましょうよ!」との内閣の「助言と承認」を「国政に関する権能を有しない」天皇陛下が書類にサインと押印をして「詔書」(天皇の文書)となり慣例にしたがって紫色の袱紗(絹製の布)にくるまれて衆議院議長の下に運ばれ、議長が宣言したら解散です。この瞬間「万歳三唱」が通例です。21日の本会議では万歳三唱の“フライング”もありました。 なぜ万歳三唱をするのか。ふつうクビにされて万歳する人はいません。士気を鼓舞するためとか、とりあえず大事なので叫び声としてちょうどいい説などがあります。 形式的には陛下の「詔書」がおでましになるので万歳をするとの説もあります。1889年2月11日の大日本帝国憲法(明治憲法)発布の式典の一部であった観兵式で「黙っているのも変だ」というので古来より慶事に唱えた中国伝来の万歳(バンセイ)を唱えようと大学の先生(大学生との説もある)が発案したのが最初ともされています。 当時の「バンセイ」には現在の漫才の意味が含まれていて「漫才、漫才、漫才」ではアホみたいなので「バンザイ」との発音を作り出したようです。明治憲法は天皇によって制定された形をとっています。その発布は外国人教師として来日していたドイツ人ベルツが「言語に絶した騒ぎ」と日記で残しているほどの大盛り上がりだったようです。だから「言語に絶した騒ぎ」をしたい時にはちょうどいい言葉でしょう。
--------------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】(http://www.wasedajuku.com/)