俳優・中村優子、No.1ホステスの役作りで高級クラブに体験入店。最終的には指名されるまでに
初主演映画『火垂』(河瀬直美監督)でブエノスアイレス国際映画祭主演女優賞を受賞し、話題を集めた中村優子(なかむら・ゆうこ)さん。 【写真を見る】漫画家に憧れていた中村優子さんが描いたナウシカのイラスト 『血と骨』(崔洋一監督)、『ストロベリーショートケイクス』(矢崎仁司監督)、『クヒオ大佐』(吉田大八監督)など話題作に次々と出演することに。
受かると思わなかったオーディション
2004年、映画『血と骨』(崔洋一監督)に出演。この作品は、1920年代に成功を夢見て済州島から大阪へやってきた金俊平(ビートたけし)が、持ち前の腕っ節の強さと上昇志向でのし上がっていく壮絶な半生を描いたもの。中村さんは俊平の美しい愛人であり、しだいに病魔に侵されていく山梨清子役を演じた。 「『血と骨』はオーディションがすごく記憶に残っています。とある1シーンをやったのですが、その後に崔さん(監督)とプロデューサーなど数名がいらっしゃって、『最後に何か質問はありますか?』と聞かれたんですね。 そのとき、パッと目が行った崔さんの手を、なぜか衝動的に掴みたくなりまして(笑)。それで、『手を触ってもいいですか?』と」 ――崔監督ビックリしたでしょうね。 「崔さんは笑ってらっしゃったかと。それはたとえば、思いがけず野原にゴツゴツした鉱物を見つけて、熱そうだけどおもしろそうだから、手で確かめてみたいというか。今にして思えば、そんな感覚だったような気がします。まったく受かるとは思ってなかったです」 ――過酷な役どころでしたね。子どもができないからと責められ虐待され、脳腫瘍にもなって。 「そうですね。脳腫瘍を患うとどういう症状があって、からだにどのような影響が出るのかとか、たくさん調べました。現役のお医者さんにもお話を伺いましたね。 でも、清子は唯一(ビート)たけしさん演じる俊平から心をもらったというか、俊平が愛したであろう女性で。そこはすごくやりがいのある役目をいただけたなと思いました」
「あの“頭ポンポン”はつらい」
2006年、中村さんは映画『ストロベリーショートケイクス』(矢崎仁司監督)に出演。ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞した。 この映画は、仕事も性格もまったく違う4人の女性たち、大失恋を経験したフリーター・里子(池脇千鶴)、デリヘル嬢の秋代(中村優子)、過食症のイラストレーター・塔子(岩瀬塔子)、会社員・ちひろ(中越典子)の日常をリアルに描いたもの。 中村さんが演じた秋代は、学生時代の男友だちの菊地(安藤政信)をずっと思い続けているが、打ち明けられず、自傷的にデリヘル嬢をやっている秋代役を演じた。 「原作の魚喃キリコさんのタッチが本当に美しくて。矢崎さん(監督)も、小林身和子さんをはじめとする衣裳部のみなさんも、シルエットにすごくこだわっていらっしゃいました。衣裳合わせは二度にわたって行い、本番さながらの緊張感でしたね」 ――秋代さんは切ない役ですね。学生時代から菊地くんのことがずっと好きなのに打ち明けられず、彼に会うときだけ美貌を封印してあえてメイクもおしゃれもしない。 「そう。興味がないようなフリをして『男としてなんて見てないけど…』みたいな感じを装う。今までの作品を振り返ると、私にとって『ストロベリーショートケイクス』は、色褪せない恋人みたいな、そんな位置付けですね。 愛にたどり着く前の恋という感じ。だからこそ危うかったり、でもたくましかったり、軽やかだったり…そういう彼女たちの物語一つひとつが本当に愛おしい恋人みたいで。これは矢崎さんがあえてそうされたんですけど、現場は女性スタッフがすごく多かったんです。やっぱり女の子たちの物語だからということで。 恋をしているかどうかは置いておいても、恋する女性の空気を全体で作っていった感じでした。『わかる、わかるこの気持ち!』なんて(笑)。結構みんなでいろいろ言いながらやっていましたね。恋バナとかバカ話もして、ずっと笑いが絶えなかったです」 ――4人のうちのひとり・塔子役を演じていた岩瀬塔子さんが、原作者の魚喃キリコさんなのですね。 「そうなんです。佇まいから説得力が違いますよね。ご本人はとても気さくで細やかで、本当にすてきな方。ますますファンになりました」 ――秋代役を演じるにあたって何かされたことはありますか? 「あのときは役作りとして秋代日記を書いていました。菊地と出会ったときのことから書きはじめて、撮影期間中もずっと続けていましたね」 ――彼女はあえてデリヘル嬢をして、菊地に好きだと打ち明けない理由にしている感じがします。 「そうですね。秋代は菊地と出会っていなければ、デリヘル嬢はやっていなかったと思います。自傷的にやっている感じで」 ――菊地がまた鈍くて秋代の想いにまったく気がついていない。 「そうなんです。ちゃっかり恋人もいてね。秋代が菊地のアパートにこっそり様子を見に行くと、窓のところで彼女の頭をなでてポンポンしているんですからつらいですよね。 あの“頭ポンポン”っていうのも矢崎さんの演出で。たしかそれもメイクルームでみんなで盛り上がりました。『あの頭ポンポンはつらいよね』って」 ――あの作品を好きな映画の一つにあげる人も多いですね。4人それぞれが痛くて、愛おしいというか。 「うれしいですね。自分の物語として見てくださる方が多いのかもしれませんね」 ――撮影現場はいかがでした? 「緊張感はありながらも、とにかく明るくて楽しい現場でした。スケジュールは結構ハードで、夜遅くなってしまうこともあったんですけど、その疲れを笑い疲れで吹き飛ばすというか。くだらない話もたくさんして、おなかが痛くなるほど笑って。その切り替えが、かえってお芝居の集中力を生んだように感じます」 ――秋代は菊地を冗談のように誘い、一度だけ関係を持ってからデリヘル嬢が務まらなくなってしまいます。 「そうですね。菊地が触ったからだに触れられたくなくて客を殴ってしまって…。それまでのバランスが崩れて、秋代の心が剥き出しになってしまった、ひりつくシーンでした」