俳優・中村優子、No.1ホステスの役作りで高級クラブに体験入店。最終的には指名されるまでに
銀座のクラブに役名で体験入店
『火垂』でストリッパー役を演じるにあたり、俳優であることを伏せながら実在のストリッパーの巡業に同行。その役を“生きる”ために何が必要かということを学んだという中村さん。 2009年に公開された映画『クヒオ大佐』ではNo.1ホステスを演じるにあたり、撮影前に素性を隠して実際に銀座のクラブで働き、指名を受けるまでになったという。 この映画は、自らをジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐と名乗り女性に近づいた実在の日本人結婚詐欺師の半生を描いたもの。父はカメハメハ大王の子孫で自称パイロットのクヒオ大佐(堺雅人)は、嘘八百の経歴と巧みな変装で女たちに近づいていく。中村さんはクヒオ大佐のターゲットの一人、No.1ホステス・須藤未知子役を演じた。 ――『火垂』が『クヒオ大佐』のときのホステス修業につながったという感じですか? 「そうですね。自ら申し出ました。最初の顔合わせで吉田大八監督や助監督さんがいらっしゃるときに『所作や雰囲気などを身につけたいので、銀座のクラブを紹介していただけないですか』とお願いをして、1カ月くらい週3でお店に入っていました。 お店に出勤する数時間前にそのクラブの指定の美容室に行って、しっかり髪をセットしていただいて。新人の未知子(役名)と名乗っていました。 やっぱりこの仕事の醍醐味って、普段なかなか出会うことのできないような方たちと出会えたり、お話を聞けたり…というのがすごくおもしろいなって」 ――お店の方たちは、映画のための役作りでということを知っていたのですか? 「はい。水割りの作り方とか所作なんかを身につけるために来ている体験入店だと知っていて、たくさん教えてくださり、さりげなくフォローもしていただきました」 ――お客さんは知らないわけですよね。 「もちろん知らなかったので、『未知子さん』とか『未知子ちゃん』と呼ばれていました。あるホステスさんが、『クラブは殿方のディズニーランドです』とおっしゃっていて。『楽しむために来ているから、小さなことでも、何でもいいから褒めてみてね』と、悪戯っぽく笑われたのが印象的でした。 それでなんとなくわかったのが、皆さんもちろんおきれいなんですけど、その中で一番目立っている方がNo.1というわけではないんですよね。 それよりも、話しているとすごくホッとさせてくれるホステスさんがひとりいらっしゃって。その方がNo.1だったんです。やはり安心感や癒しというものは、老若男女問わず、人の求めるところなんだなと」 ――最終的に指名されるようになったとか。 「はい。奇跡ですね(笑)。本当は接客が全然向いてないんですよ。映画の役のためだから興味を持って、楽しくお仕事をさせていただいたんですが、簡単にできるようなものじゃないです」 ――アルバイトをされたことはあるのですか? 「あります。以前に一度、友人が経営していたカフェで。すごく楽しく働かせていただいたのですが、そこで自分がいかに接客に向いてないかということがよくわかりました。すごく挙動不審でダメなんです(笑)。だから皿洗いをやらせてくれと頼んで、ひたすらお皿を洗っていました」 ――騙そうとしているクヒオ大佐から逆に独立資金を巻き上げようとするユニークなキャラでしたね。とてもきれいでゴージャスですてきでした。 「ありがとうございます。あれは気持ち良かったです(笑)。普段の自分とあまりに違うので、映画を見てくれた同級生たちからは詐欺師扱いされました(笑)」 トップクラスのホステスの動きを撮影させてもらって参考にして、1000回作ることを目指し、家でもお酒の作り方を繰り返し練習したという中村さん。徹底した役作りで知られ、『鉄男 THE BULLET MAN』(塚本晋也監督)、『ユンヒへ』(イム・デヒョン監督)、『燕は戻ってこない』(NHK)などに出演。 次回はその撮影エピソード、公開中の映画『箱男』(石井岳龍監督)も紹介。(津島令子) ※河瀬直美監督の“瀬”は旧字体が正式表記 ヘアメイク:風間啓子