Jリーグを襲う中国の脅威
それでも大分トリニータと東京ヴェルディの経営危機が発生したことがきっかけとなり、2013年からはクラブライセンス制度が運用された。現状では3期連続の単年度赤字か、もしくは債務超過が生じているクラブはJリーグ退会をはじめとする厳しい処分が課される。 必然的に選手補強に対してもリスクを冒さなくなると、あるJ1クラブの強化責任者は指摘する。 「ブラジル経済が好調なこともあり、かつてのように安くて有能な選手がいなくなった。外国人選手にお金をかけることをよしとしない状況の中では、『日本にすぐ適応できるか』が重要になる。いまは外国人選手がたらい回しになっているというか、J1の下位で活躍した選手を上位が獲得するケースが多い。私自身も同じ東アジアの中国や韓国、そして日本で結果を残しているなら適応に関してリスクは小さいと考えている」 そのなかで清水エスパルスは、ナイジェリア代表歴を持つFWピーター・ウタカを開幕直前に完全移籍で獲得した。北京国安の監督が交代したことに伴い、ウタカが外国人枠から弾き出された状況をキャッチしたエスパルスの作戦勝ちだった。J2のジュビロ磐田も開幕直前に、元イングランド代表のFWジェイ・ボスロイドと契約した。それまで所属していたタイの強豪ムアントン・ユナイテッドと、ジュビロが業務提携を結んでいたことが優位にはたらいた。 そうした特別な状況を除けば、もはや日本に大物外国人は来日しないのか。前出のJ1クラブの幹部は、ワールドカップ得点王の大物ディエゴ・フォルランを年俸6億円で獲得した昨シーズンのセレッソ大阪のJ2降格が、投資への機運を萎えさせるのではないかと危惧する。 「無駄な投資はするものじゃない、と考えているクラブは少なくないでしょう。横浜ゴムがプレミアリーグのチェルシーを5年契約、合計370億円でスポンサードするように、日本企業は普通に大金を出せる。ただ、Jリーグ自体が投資する価値があると見られていない。企業がその気にならないのは、日常生活のなかにサッカーが見えてこないから。露出を増やし、観客動員を増やすために2ステージ制を採用した。僕たちも正しい開催方式だと思っていないけど、世界のなかでは中位にランクされるリーグであるわけだから、投資してもらう可能性を少しでも膨らませるような絵を描かないといけない」 中国は先の全人代でサッカー改革法案を承認した。ワールドカップ開催を念頭に置いて、代表チームの強化や底辺を支える国内リーグを取り巻く環境の整備を、サッカー好きの習近平国家主席が主導する国家プロジェクトとして取り組んでいくことになる。 中国の存在を「脅威」と位置づけた村井チェアマンは、「このまま座しているわけにはいかない」と力を込めた。後ろ向きの経営姿勢を反転させる環境が生まれない限り、大物外国人選手の獲得を含めて、中国の後塵を拝する状況は続いていくことになる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)