「選択肢が多ければよいというものではない 脳に掛かる比較検討という『強い負荷』」ジェーン・スー
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 退屈なルーティンをワクワクさせるには、選択肢をいくつか用意しておくといい。以前、この連載でそう書きました。たとえばボディーソープやタオル。毎日入浴するからこそ、自分を飽きさせないために複数用意しておくと、香りや肌触りの違いがちょっとした刺激になって楽しめますよという提案でした。これ、本当におすすめです。 しかし、選択肢が多ければよいというものでもありません。現在、私はカジュアルなカバンを購入する強い意思があります。心から欲しいと思っています。しかし、選べない。ちょうどよい形と値段のものがネットショップで見つかって、あとは色を選んで購入ボタンを押すだけ。だが、それができない。色の選択肢が24種類もあるので! いやあ、参った。選択って、ある一定以上の幅が出ると途端に負荷になります。考えているうちに、楽しいはずの行為が苦痛になってパソコンをそっと閉じる……を、私はもう1カ月以上やっています。 選ぶ時間がないわけでもなく、最も欲しい色を見極めるのがつらくてやめてしまう。1万5千円なのだから、ふたつ買ってもよいのですが、カバンはたくさんいらないし……。いや、違う。同じ形の色違いのカバンを買ったことがあるもの。その時は3色中2色を購入しました。選びきれないのは、やはり選択肢の多さが原因だ。24色からふたつ選ぶのって、12色からひとつ選ぶのと同じだもの。 選択肢がいくつ以上になると、私は決められなくなるのか。試しにマニキュアを並べてひとつ選んでみる実験をしました。五つくらいまでのうちなら簡単に選べましたが、七つ八つからひとつ選ぶとなると、急に億劫になるのがハッキリわかりました。 私はこだわりが少ないほうなので、なにを選ぶ時も適当です。もしくは、欲しいものがハッキリしていてすぐ選べる。それは、選択肢がそれほど多くない時に限る話だったのだと今回よくわかりました。多数の比較検討が私の脳に掛ける負荷は相当強い。 生きることは選択の連続。故に、自分の脳に負荷がかかりすぎない選択肢のリミットを把握しておくのは大事なことかもしれません。欲しいものがわかっている時ほど、オプションで迷うのが人生だ。 選べない理由を知ることは、選べるようになること。さ、絶対いらない色を省いてからカバンを選びなおさなきゃ。 じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。 ※AERA 2024年10月28日号
ジェーン・スー