創業から48年間「値上げしない博多ラーメン店」を直撃…物価上昇時代に【1杯290円】を貫く「驚きの信念」
ライバルがいない“一人勝ち”状態だった
澄川氏は「原価と売価に因果関係がない」と話すが、原価率が上がれば1杯あたりの利益が落ちることは間違いない。その点は、経営上どのようにコントロールしているのだろうか。 「もちろん1杯の利益率は下がりますが、売り上げ杯数が増えれば、利益は上がります。他の店が値上げをすれば、うちは何もしなくてもお客さんが増えます。物価は上がっても給料が上がっていない人がほとんどの時代、値上げしたら客数が減るのは当たり前ですよね。うちは値段を変えていないだけで、いつの間にかライバルがいなくなったということです」 世間のあらゆるものが値上がりする中で、長年290円を掲げ続けていると、その存在感は一層増してきたというわけだ。 「額面上はずっと290円ですが、これは実質値下げなんですよ。消費税がなかった時代から290円でしたが、平成元年(1989年)に消費税が3%になって5・8・10%と上がってきても変わらず290円のままなので、税額分は安くなっています」
「安さ」で社会貢献を実現する
290円という安さでラーメンを提供し続けるのは、同社の利益だけでなく社会貢献の意味もあると澄川氏は続ける。 「会社とは社会貢献をすべき存在だと考えています。今、外食で昼ご飯を食べようとすると、700~800円は当たり前で、少し気を抜くと1000円を超えますよね。うちの客単価はだいたい400円くらいです。800円の昼ご飯を、週に2回うちのラーメンにしたら月に3000円くらい浮くわけです。お客さんはそのお金で他のことができる。それが、人や社会の豊かさを産むのです」 浮いた3000円を、さらに自社に使って欲しいわけではなく、社会に回して欲しいという澄川氏の思い。これは、アメリカではすでに実践されている例もあるのだとか。 「アメリカに行くと、スーパーマーケットは照明が暗いんです。その方が落ち着いて買い物ができるから、買い忘れが少なくなる。すると、週4回の来店を週3回に抑えられ、空いた時間で他のことができるのです。日本は逆で、店を明るく賑やかにして購買意欲を喚起しようとしています。すべてがそうであるとは思っていませんが、『自分のところが儲かる』ばかりではいけないと考えています」 現代では驚くべき290円の激安ラーメンを提供する「博多ラーメン はかたや」。そこには、経営に対する社長の理念と、福岡県民における博多ラーメン文化の立ち位置を守ろうとする信念があった。 後半記事『48年間「ラーメン1杯290円」を貫くラーメン店が【12時間ツーオペ営業】を実施する「シンプルな理由」』では、この価格を守り続けるための苦労と工夫に迫る。 〈取材・文/Mr.tsubaking〉
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