『一月の声に歓びを刻め』三島有紀子監督 自主制作で分かった映画作りの原点【Director’s Interview Vol.387】
映画作りってこういうこと
Q:最近は長らく商業映画を監督されていましたが、久々の自主映画制作はいかがでしたか? 三島:よく考えたら自主制作は学生以来ですね。「自主制作並にお金が無いと思ってください」と言われた作品は過去にありましたが(笑)。 商業映画と自主制作では、自分の中では思考の順番が違いました。商業映画の場合は、今の時代や出来事、人々が抱えている悩みなど、全体を見るところからスタートし、描く人物を自分ごとのようにしてエッセンスを考えていきます。一方、今回の自主制作は、47年前に起きたパーソナルな事件がきっかけ。自分の中の自分をひたすら見つめていく作業でした。自分で自分を取材するような形で生まれてきた、マキ・誠・れいこといった人物像を組み立てていく中で、今回のテーマである“罪の意識”や“社会”みたいなものが朧げながら見えてきた。商業と自主ではアプローチの方向、その比重が全然違ったので、それはそれで面白かったですね。 ただ、自主制作は色々と大変でした(笑)。でも、“映画を作る”ということの基本に立ち返ることが出来たと思います。いままでの作品で自分の企画も多くありましたし、プロデューサーのやりたい企画の中に自分のやりたいことに出会わせていただくこともありましたが、映画って、自分の作りたいという思いからスタートする。やっぱりそれが映画作りの基本なのだなと。 配給も公開も決まっておらず、お金も集まってない段階で、一緒に作ろうと言ってくれた山嵜晋平さん(プロデュース)と、スタッフや役者のみなさまに参加をお願いしてまわりました。「なぜ、この映画を作りたいのか」を1ページ目に書いた脚本だけをお渡ししたのですが、皆さんそれだけで参加を決めてくださった。そういった皆さんと映画を作っていること自体が、すごく原点な感じがしました。 これまで、のたうち回りながら映画を作ってきましたが、監督としては、なるべくそれを出さないようにしようと努力していました。でも今回は、人として小さな部分やダメな部分も全てさらけ出した。それでもこの映画を作ろうと、スタッフや役者たちは一緒に作り上げてくれました。まさに「映画作りってこういうこと」なのかなと感じた現場でしたね。