珍しい、ちょっと変わった魚の名前の名字「金魚」。そのルーツは商家の屋号!?
珍しい名字:金魚(きんぎょ)
日本は四方を海に囲まれているため、魚に因む名字はたくさんあります。しかし、その多くは「鮭」や「鯉」「鮎」など、川に住む魚。しかも食べる魚がほとんどです。 日本人の名字は昔の人の生活と深い関係があるため、日常的に接していた魚=川にいて食べる魚に因むものが多い。 今とは違って中世以前の古い時代には、大海原に出てマグロやカツオを獲ってくるというのは珍しかったからです。 そうしたなか、ちょっと変わった魚の名前の名字があります。 山口県下関市には「金魚」と書いて、文字通り「きんぎょ」という名字があります。 江戸時代にはすでに金魚は飼われており、大和郡山は金魚の名産地として知られていました。しかし、「金魚」のルーツはこれとは全く関係がないのです。金魚家は江戸時代は廻船問屋で、「魚屋金蔵」と称していました。 こうした屋号を名乗っていた商家は、明治になって戸籍に登録する際、屋号をそのまま名字とする、屋をとって名字にする、「屋」を「谷」に変えて登録する、という3つのパターンに分かれました。実際、「魚屋」「魚」「魚谷」はすべて実在します。 ところが、魚屋金蔵は「魚」と「金」をとり、さらにひっくり返して「金魚」を名字にしたといいます。おそらく、伊勢屋丹治を「伊勢丹」と言ったように、魚屋金蔵は「魚金」と言われていたのでしょう。 ただし、なぜひっくり返したのかはわかりません。
森岡浩/Hiroshi Morioka
姓氏研究家 1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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