酒、肉、金、女、女、女!若き日のトランプの悪ふざけ
ニュージャージーに戻って「あんたら」と南部訛りで言うと、友だちは容赦なくはやしたてた。楽しくて、不安のない、アッパーミドルの生活だった。 そうしたことを介して父親が教えてくれたのはアメリカの未来像だった。それがブレント自身の未来像になった。その未来では、正しいおこないをしていればすべてが手に入った。そして父親はいつも正しいおこないをし、最後までその態度を崩さなかった。体中ががんに蝕まれても、死ぬ数時間前に栄養ドリンクをもう1缶開け、翌日までなんとか生き延びようとしていた。 その父の最後の姿を忘れることができればどんなにいいか、とブレントは思った。父親はセールスマンの楽観的なやり方で栄養ドリンクをむせながらも全部飲み切ったのだ。その姿を忘れることができなかった。 父親は62歳で死んだ。ところがドナルド・トランプは、悪いことばかりしてきたこの男は、70歳まで生きて大統領職を手にした。ここにどんな教訓があるというのだ、とブレントは思った。
● 独りよがりで下品なウソつき男が あろうことか米軍の最高司令官に 「大言壮語で残忍で自己中心的な男が、マリーン・ワン(大統領専用ヘリコプター)にいまも乗っているのはどうしてだ?そんな姿を見て、これでいいんだ、と言えるのか?」ブレントはトランプのことをそう言った。「俺はこれまで、ああいう男は必ず失敗すると教えられてきた。ところが奴は失敗していない」 ブレントを苦しめているのはトランプの地位ではなく、トランプの振る舞いだった。トランプが弱い者いじめをしていることだった。その下品さ。その独りよがり。その嘘。そのモラルの欠如。ひっきりなしにだれかを悪者に仕立てているその投稿(ツイート)だった。 ツイッターでトランプの投稿を見るたびにブレントは、トランプが贅沢極まりない寝室で、ボクサーショーツとシャツ、黒い靴下だけの姿でベッドの端に腰を掛け、身を乗り出して文章を唸りながら書いている姿を思い描いた。 その唸っていた男は、ブレントの国の大統領になるだけでなく、軍の最高司令官にもなるのだ。 陸軍に入ったときにおこなった宣誓には非常に重要な意味があるので、彼はいまでもその言葉についてよく考える。「あらゆる国内外の敵に対してアメリカ合衆国憲法を維持し保護する」と彼は誓ったのだ。 それは一個人に対する忠誠というより文書への忠誠を誓う行為であり、それが25年に及ぶ軍隊生活での指針となり、4人の最高司令官に仕えることができた。