東から見ればオリエントと古代ローマは続いている。中国と地中海が文明の「二大源流」だ。
現代は本当に「文明の転換期」なのか?
――そうしますと、この「地中海世界の歴史」も今の時代を反映したものになっている? 本村 それはたぶん、そうだと思います。書いた本人が自覚していないところでもね。 いまがどんな時代なのか、それはその時代を生きている人間には、なかなかわからないものじゃないでしょうか。いまは文明の転換期だ、1000年に一度の激動期だ、とはよく言われることですけど、いつも「自分たちの時代が転換期」と言われるんですよね。 では、いったい何が転換しつつあるのか。コンピュータが発達して通信技術が変わったっていうことが、本当に文明の転換なのか――。 ある人に言わせれば、20世紀になって家族関係が変わったっていうのが一番の変化だと。一族のあり方や親子関係の変化ですね。これはヨーロッパでも、エマニュエル・トッドが人口学的な見地から家族構成と文明の関係について早くから言及していました。文明の転換って言ったって、何が核心的な転換なのか、通信機器の変化っていうのは確かに大きいけれど、それだけじゃないのかもしれない。 本村 人類の歴史は、記録の残っている5000年のうち4000年は「古代」なんだっていうことを、もっと意識してもいいだろうと思う。我々の社会や文化は、根底の部分では「古代」によって規定されているだろうと。 何が文明の転換なのか、歴史の中でどこにその兆しがあったのかは、1000年くらいのレベルで歴史を見ないとわからないし、そうした大きな枠組みで考える一つのきっかけに、このシリーズがなってくれればと思います。 ※インタビュー後編では、「全8巻の読みどころ」について著者自ら語ります。
本村 凌二(東京大学名誉教授)