日本通信は「ネオキャリア」へ。ドコモと音声接続でMVNOはどう変わるのか、データ通信もサービスの幅が広がる可能性(石野純也)
現状のMVNOは、データ通信をさばくための設備を持ち、サービスを提供しています。MVNOを契約しているユーザーのデータは、大手キャリアの基地局を通ったあと、そのキャリアの設備を通らず、MVNOを経由してインターネットに抜けています。MVNO側がデータ通信の料金をある程度自由に決められているのは、そのためです。回線を借りるための料金は、大手キャリアの設備とMVNOの設備を結ぶための帯域にかかっています。 これによって、データ通信はある程度自由に課金ができるようになっています。通信速度を抑えて料金を下げたり、データ容量をシェアできたりといったサービスは、MVNO側が設備を持っているからこそ実現しているもの。これに対し、音声網には自由度がなく、大手キャリアが提供するサービスを、そのままユーザーに“また貸し”しているような状態です。MVNO側の設備を通っていないため、ここに何らかのサービスを付加したり、料金設定を自由に変更したりすることができません。 これを可能にするのが、日本通信がやろうとしている音声接続です。具体的には、IMSという音声通話を制御する設備を自ら持ち、ドコモ側のそれと接続。HSS/HLRと呼ばれる加入者管理機能で、日本通信側が直接ユーザーを管理する形態です。基地局などの最終的な無線部分はドコモ側の設備を利用しますが、それ以外はほぼほぼ日本通信側のサービスになると言えるでしょう。冒頭で述べたように、これをやるには、日本通信に対して電話番号の付与も必要になります。 では、実際にどのようなサービスが可能になるのでしょうか。日本通信が挙げていたサービス一例が、その中身です。1つ目が海外ローミング。現状のMVNOは、電話番号を持っていないこともあり、海外でのデータ通信が利用できません。電話番号自体は大手キャリアのものになるため、海外キャリアから接続する先をMVNOにすることができないためです。そのため、大手MVNOのサービスは、ほとんどが海外データローミングに非対応。大手キャリアの設備をそのまま使う音声通話やSMSのみの対応になっています。 自身で電話番号を持ち、海外キャリアと接続すれば、それが可能になります。また、仮に日本通信がドコモだけでなく、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルと接続できれば、1枚のSIMカード/eSIMで複数のキャリアにつながる「マルチキャリアSIM」を導入することができます。日本通信側の加入者管理機能で、どちらにつなぐかを制御できるようになるからです。 これが実現すれば、災害時はもちろんのこと、エリア的に電波が弱い場所や、パケ詰まりが激しい場合などに、もう1つのキャリアに切り替えることも可能になります。現在は、デュアルSIM端末でユーザーが意図的にSIMカードを切り替えることで近い運用ができますが、それをMVNO側で制御できるようになれば、1枚のSIMカードで済んでしまうことになります。その応用例として、日本通信自身が設置したローカル5Gと、ドコモ網を1枚のSIMカードで行き来できるようなサービスもできます。 また、日本通信は、料金値下げも示唆しました。これは、音声通話のサービスを始めることで、日本通信が他キャリアから着信料を受け取れるようになるため。これを織り込むことで、ある程度通話料やデータ通信の料金を下げることも可能になります。さらには、音声設備を使って間に翻訳機能を入れるといった、電話の高度化も日本通信自身のサービスとして導入できるようになります。 ほかにも、eSIMの発行やAPN設定の自動化などなど、音声網の設備と加入者管理機能を持つことで、MVNOのサービスの自由度は広がります。福田氏が、「極端な話、音声通話のために音声網を接続するのではない」と語っていたのは、そのためです。いずれにせよ、サービス開始は2026年以降になりますが、コンシューマーサービスの日本通信SIMにもポジティブな影響がありそうなだけに、その時を期待して待ちたいところです。
石野純也@TechnoEdge