VWディーゼル排ガス問題 マツダの「不正ない」公式声明を検証する
「後処理」ではなく燃焼時にNOxを減らす
ようやく本題のマツダSKYACTIV-Dの検証に入る。SKYACTIV-Dは非常に変わったコンセプトのディーゼルエンジンである。ディーゼルの排ガスを考える時、基本になるのはNOxとPM(粒状物質)だ。ややこしいことにこのNOxとPMはトレードオフの関係にある。 NOxが減る条件は以下の3点になる。 (1)圧縮比を下げる (2)ゆっくり燃焼させる (3)低温で燃焼させる NOxとPMはトレードオフなのでこの場合、PMが増える。しかし燃焼後排出されたガスを後処理で浄化しようとする時、PMはフィルターで濾しとることが比較的簡単なため処理がしやすいのだ。だからマツダは燃焼時のNOx低減に目標を絞って、NOxを元から退治するためのシステムを構築したのである。 それは別の側面から見れば、高価なプラチナを使うNOx吸蔵触媒やユーザーが尿素水を補給する手間をかけなくてはならない尿素SCR装置を使わないことで、コストと保守労力の低減を図ることにも繋がる。 そのために、マツダはエンジンの圧縮比をディーゼルエンジンの常識を破るほど低くし、EGRによって不活性ガスである排気ガスを吸気に混ぜて燃焼温度を下げた。圧縮比を下げたためパワーは落ちるが、同時にエンジン各部の強度も従来ほど必要なくなったため、エンジンのアルミブロック化や部品の軽量化が可能になり、全体として軽量なエンジンに仕上げることもできた。
エンジンのパワーダウンには目をつぶる
圧縮比に焦点を絞れば、エンジンパワーを諦められないフォルクスワーゲンと、ある程度パワーに目をつぶってもNOxの根源的退治を狙ったマツダという構図になる。これはエンジン設計思想の違いである。もちろんフォルクスワーゲンが触媒などの後処理装置でNOxをきちんと処理できれば、それは単なる思想の違いに過ぎなかったのだが、少なくとも結果を見る限りそうはならなかった。 さて、世界中の排ガス規制のどれであれ、不正な手段でパスしようと思えばできないことではない。仮にマツダが、燃焼そのものでNOxを処理し切れず、違法ソフトを使って不正な結果を出そうとした時、何ができるだろうか? 燃焼速度を遅くしようと思えば、EGR量を増やすか噴射タイミングを遅くすればいい。燃焼温度を下げようと思えばEGR量を増やせばいい。パワーダウンを受け入れればできないことはないが、そこで不正をするくらいなら圧縮比を下げてパワーで不利な設計をしている意味がない。もう一つ燃料を濃くすれば燃焼温度は下がるが燃費が悪化し、PMが大変なことになる。 要するに、後処理装置を持たないマツダのディーゼルエンジンでは、NOx吸蔵触媒の加温と尿素SCRの噴射量を増やすという最も簡単で効果がある方法が使えない。構造上、不正がしにくいシステムなのだ。